意外な力作だった、日本テレビ開局70年スペシャルドラマ『テレビ報道記者~ニュースをつないだ女たち~』

www.ntv.co.jp
■脚本:ひかわかよ 撮影:野村昌平 照明:東憲和 音楽:Jun Futamata 演出:狩山俊輔 で、制作会社は ケイファクトリー坂元裕二の『Mother』の制作協力でもあり、劇中にその映像が登場する。

■1995年のオウム真理教事件、1996年の上智大生殺人放火事件、2008年の秋葉原無差別殺傷事件、2011年の東日本大震災、2019年、2020年のコロナ禍、そして2024年とその時々の重要事件を取り上げて、目まぐるしいほどに時制を頻繁に行き来しながら、日本テレビ報道記者として生きてきた女たちの矜持を謳い上げる、日テレ自画自賛ドラマ。

■であることは事実なんだけど、意外に出来が良くて、とにかく始めは時制がアラベスクのように入り乱れるので、一体どこに着地するのかとめまいとともに気をもむけど、最終的にしかるべきところにきれいに着地するし、自画自賛に終わらない苦さを含んだリアルさを伝える。

■演出の狩山俊輔は倉敷の大学で元東映の小西通雄の指導を受けた人らしく、そのつてで東映に入社し、平成仮面ライダーの助監督から成り上がった、なかなかの苦労人(?)。たぶん『エルピス』に触発されてシネマカメラで撮影されていて、特に現在パートは映像のルックがそっくり。しかも、過去のパートはそれぞれに色調を変えるし、暗部にはかなり粒状性を乗せて、時代色を表現する。仲間由紀恵のパートなんて、当時のビデオ撮りの陰影の浅い雰囲気を醸し出すし、当時のニュース映像に合成したり、記録映像とのマッチングもなかなか見事。一部VFXが苦しいカットもあったけど、かなりいい仕事。

■Z世代の新人記者役の芳根京子(役名に「令和」の文字が入っている)が妙に素晴らしく、どこかで観た人だなあと思っていたら、なんのことはない『カラオケ行こ!』のももちゃん先生じゃないか!演技の幅が広いので感心するし、非常にナチュラルな演技ができる人。しかも中盤の時限爆弾として中村中が仕込まれているのも凄くて、ホントに言われるまでだれだか分かりませんでしたよ。じっさい『52ヘルツのクジラたち』より上出来だと思います。びっくりした。

www.youtube.com

■日テレ初の女性報道記者役の仲間由紀恵はさすがにぽっちゃりし過ぎ(健康的?)だとおもうけど、いい役なのでまさに儲け役だよね。男女雇用機会均等ができる前の野蛮な(いやわれわれにとってはそれが当たり前だった)時代、男社会の報道畑で女性報道記者がどんな扱いを受けていたかをリアルに伝え、オウム事件の報道を巡って挫折感を味わい、報道方針の誤りで人命を喪った十字架を背負って戦い続けようと思ったけど、女は男の補助役だと上から言われてアホらしくなって(!)日テレから退場する人間像が、結構いい塩梅で、というか切実にシリアスに描かれる。このエピソードは、主要人物に直接は絡まず、並行して描かれるわけだけど、時代の制約の中で足掻き続けて、でもその御蔭で今があることを誠実に伝えるし、だから私たちも次の世代のために足掻き続けなければならないと訴える。テーマ性がしっかりしているし、役者も良いので、最終的には納得も得心もできるし、芝居の見せ場も意外とよく出来ているから役者が引き立つし、いい芝居を観た満足感も味わえるという良作。要は、脚本がよく書けていたわけですね。ひかわかよという人が書きましたよ!

■日テレは『セクシー田中さん』問題の渦中で、このタイミングで自画自賛ドラマを出すなど呆れる声もあるらしく、そのことをあげつらった(アクセス数狙いだけの)浅薄なネット記事もあるけど、観てから言おうね。なんでも思いついたことを脊髄反射的に言えばいいってもんじゃないのでね。もちろん日テレに組織的に問題があることは確実だけどね!

© 1998-2024 まり☆こうじ