東京大空襲 第一夜・受難 第二夜・邂逅 ★★★

脚本■渡辺雄介上川伸廣、寺田俊雄
撮影■小松(第一夜)、石山稔(第二夜) 照明■藤原武夫
アート・プロデューサー■木村威夫 美術監督池谷仙克 音楽■溝口肇
VFXプロデューサー■西村了 VFXスーパーバイザー■道木伸隆 
VFXユニット VFXプロダクションスーパーバイザー■松岡勇二、荒木史生
特撮ユニット 特撮・視覚効果監修■泉谷修 撮影■村川聡 美術■稲村正人
演出■上川伸廣(第一夜)、長沼誠(第二夜)

日本テレビ55周年記念ドラマで、先だってのTBS「シリーズ激動の昭和 3月10日東京大空襲 語られなかった33枚の真実」に対抗した大作ドラマである。ハイビジョン制作だが、実質的な制作は日活撮影所が担当し、スタッフも映画畑の技術スタッフが総動員されている。日本映画でもほとんど描かれなかった東京大空襲の地獄絵図をVFXを駆使することで具現化する意欲作で、しかもテレビで実現したことに正直驚かされるのだが、何か政治的意図があるのだろうか。

■病院で出会った看護婦と心臓病のために出征できない若者との恋愛をベースに、病院関係者が東京大空襲に巻き込まれるまでを描くのが第一夜、既に第一夜で約半数が死亡した登場人物が、大空襲後を生き延びようとしながら、結局ほとんどの生き残りも空襲で絶命してゆくまでを第二夜で描く。

■そもそも脚本の手つきが非常に怪しげで、どうしてもっとベテラン作家に任せなかったのか不可解なのだが、特に前半でもたついた作劇が後半でそれなりに回収されて、クライマックスの瑛太の死や堀北真希の死には胸を突くものがある。生き延びるために朝鮮から日本へ渡り、アメリカのスパイの片棒を担がされるがアメリカにも裏切られて大空襲で大切な恋人を喪い、特高の拷問に屈して逆スパイとなることを決意するが、そのつかの間、空襲で人生を断ち切られるという無残な青春像には、なぜか意外なほど心情がこもっている。ただ、演じる瑛太の演技的な問題をかなり割り引いて観る必要があるが。アメリカに裏切られたら、今度はソ連を頼りにと、大国頼りの抗日運動を自嘲する場面もあり、東京大空襲の悲劇に巻き込まれたのは日本人だけでなかったことをよく伝えている。堀北真希は若手のなかでは地味な女優だが、全編にわたって素直な力演でドラマを支え続け、ラストの「私を最後の一人にして、もう誰も殺さないで」という絶叫が肺腑をえぐる。第一夜でどうなることかと心配したが、一応のメッセージを伝えることには成功しているし、そのメッセージに真情を込めることにも成功している。

■特に第一夜の作劇と演出には疑問が多く、ほとんど10分おきにしつこく流れる主題歌が失笑を誘うのだが、ナレーションに大滝秀治を据えたのは大成功だし、実に63年を経た奇蹟の邂逅には、お約束とはいえ、泣かされた。東京大空襲の灼熱地獄のなかでの虫けらのような死と独居老人としての孤独死を対置した構成は優れた着眼だった。

■日本映像クリエイティブや日本エフェクトセンターを中心とするVFX、特撮班が編成されており、CGとデジタルマットに加えて、ミニチュア撮影も駆使されている。ミニチュアは病院の崩壊シーンなどで使用されているが、それほどよい出来ではない。特撮班は「マリと子犬の物語」と同じスタッフだ。言問橋を中心とした焼夷弾による灼熱地獄の描写は客観カットが中心で、おそらく何重ものレイヤー処理がなされているだろう。ただ、炎の壁が迫るといったカットも炎の素材をデジタル合成でダブらせる手法が中心で、灼熱の凄まじさ、炎の恐怖はあまり表現できていない。様々な意味でテレビの限界というべきだろうが、こうした題材が映像化されることはそうそう無いことなので、貴重な仕事といえる。瑛太の乗った列車が機銃掃射される場面など、短いカットだが空撮カットのデジタル処理が素晴らしく、リアルだった。

■シンプルで鋭い切り口を持つ廣澤榮と安藤日出男の未映画化脚本「東京大空襲」の衝撃には及ばないが、予想以上に意欲的なドラマであり、配役、ロケーション等について多々疑問点もあるが、よく頑張ったと思う。その意欲は評価されるべきだ。しかし、逆に考えれば、上記「東京大空襲」が映画化される機会はほぼ完全に失われることになったわけであるが、願わくば、特撮研究所東映アニメーションのコラボで東映によって映画化されることを心から切望する。

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