どろろ ★★☆

どろろ
2007 ヴィスタサイズ 138分
TOHOシネマズ二条(SC10)
原作■手塚治虫 脚本■NAKA雅MURA、塩田明彦
撮影■柴主高秀 照明■豊見山明長
美術監督■丸尾知行 音楽■安川午朗福岡ユタカ
アクション監督■程 小東 VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXディレクター■鹿住朗生
監督■塩田明彦


 手塚治虫の問題作「どろろ」がまさかの超大作として実写映画化された。TBS製作で制作費20億円、長期海外ロケ(ニュージーランド)を敢行という「ドラゴン・ヘッド」スタイルの制作体制が敷かれ、アクション監督にチン・シウトンを迎え、「HERO」や「LOVERS」に倣って欧米市場を見据えた企画である。

 ごくアバウトに言ってしまえば、2/3の部分までは意外と頑張っているのだが、最後の1/3でグズグズに崩れてしまい、水準作に今ひとつ至らないという評価に止まる。

 百鬼丸妻夫木聡)の呪われた出生の秘密の部分は琵琶法師の回想として語られるが、原作マンガのグロテスクさを抑制しながらも、描くべき部分は逃げずに描ききっており、フランケンシュタインの怪物の誕生の様をキチンと表現して立派なのだが、原田芳雄がすぐに死んでしまうので、劇的にはあまり意味が無い。生まれたばかりの百鬼丸は、まるで”やわらか戦車”のようにソフトでぷにぷにしている。

 一方、百鬼丸からどろろの名を貰う泥棒小僧(柴咲コウ)の配役は意外な大成功で、彼女の天性のアウトロー気質が久々に120パーセント発揮されて、どろろというキャラクターが大きく膨らんで、この映画の魅力の中心となっている。「日本沈没」の煮え切らない小娘役をふにゃふにゃと演じていたのと比べると別人のような溌剌たる表現力だ。妻夫木くんはどうしてもつるっとしたキャラクターで、ゴツゴツした凄みや、影が無いので、百鬼丸というキャラクターが淡白になりすぎてしまったが、どろろとのコンビによる妖怪退治の道中は、マカロニウェスタン風の劇伴と相俟って、中盤のご馳走となっている。

 ところが困ったことに敵役となるのが中井貴一であることと、多宝丸(瑛太)の登場以降の作劇が混乱していることによって、最後の部分で激しく腰砕けとなってしまう。何度も言うようだが、中井貴一は立役(たちやく)ではなくて、あくまで父親譲りの二枚目なのであって、そこを混同するからこうした配役ミスが多発するのだ。

 せっかく超現実的な醍醐の城が登場するのに、最後に屋台崩しを見せてくれないのも困りもの。クライマックスの濃密な芝居は城内で展開すべきところで、因縁の決着とともに、奇怪な城が崩れ落ちてくれないと、落ち着かないこと夥しい。

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