発端はよくあるサスペンス劇だが。。。『ある男』

基本情報

ある男 ★★★
2022 ヴィスタサイズ 121分 @アマプラ
原作:平野啓一郎 脚本:向井康介 撮影:近藤龍人 照明:宗賢次郎 美術:我妻弘之 音楽:Cicada 編集&監督:石川慶

感想

■旦那(窪田正孝)が林業の事故で死んだ。でも死んだ夫の兄は、これ弟じゃないと言い出す。死んだ夫は何者だったのか?知り合いの弁護士(妻夫木聡)が男の過去を探るが。。。

■お話の発端はありふれたサスペンス劇で、実際、基本的にはサスペンス劇と家族劇の融合になっていて、ちゃんと泣かせる家族劇になっているのは、さすがに松竹映画。配給だけかと思いきや、企画、製作からして完全に松竹映画。下手すれば、山田洋次が撮っていたかもしれないくらいの勢いだ。

■原作は純文学だとおもうけど、映画は非常にわかりやすくできているし、安藤サクラも期待通りにナチュラル演技で良い塩梅だし、窪田正孝くんもよく頑張ってる。なにしろ途中はボクシング映画になってしまうので、映画のために鍛えましたね、きっと。眞島秀和の嫌味加減もいい具合だった。良い俳優になったよね。大きな秘密を握る囚人が柄本明で、少し前なら山崎努とかが演じたかもしれないけど、今の日本映画ではほぼ柄本明が独占している。それだけ役者の層が薄くなっているということ。実際、柄本明の配役は当たり外れがあり、打率は5割くらいじゃないかと思う。本作も悪くはないし、ユニークな味はあるけど、意外性はないよなあ。

■もうひとりの「ある男」である妻夫木聡は在日三世であって、周囲にはなにげに差別的な人がいて、それどころか柄本明には露骨に差別発言を投げかけられるけど、彼が追う「ある男」だけでなく、自分自身のアイデンティティについても危うい亀裂を生じる。安藤サクラの家族と妻夫木聡の家族を対比させて描くオーソドックスな構築で、安藤家の家族模様でしっかりと泣かせる、古典的な映画。

■実際、サスペンス劇としては展開や謎解きについて尻すぼみであるところは、こうした映画の宿痾であって、まあ仕方ないよね。純粋なサスペンス劇としては、ウィリアム・カッツの小説『恐怖の誕生パーティ』なども「見知らぬ夫」モノの傑作だったけど。


参考

maricozy.hatenablog.jp
安藤サクラは、こんなにいい女優なのに、『ゴジラ-1.0』の酷さはどこからきたのか?どんな演技指導を?
maricozy.hatenablog.jp
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