戦後24年、まだ戦争は終わっていない!もともとは「喜劇 ゲリラの群れ」だった野坂昭如原作の力作『極道ペテン師』

基本情報

極道ペテン師 ★★★
1969 スコープサイズ 93分 @アマプラ
企画:友田二郎 原作:野坂昭如 脚本:村井良雄、千野皓司 撮影:姫田真佐久 照明:松村文雄 美術:徳田博 音楽:林光 監督:千野皓司

感想

釜ヶ崎に住むペテン師集団の頭目カンパイ氏は、昨年の交通事故のせいでインポ状態だ。仲間たちといろんな奇抜な詐欺を働くが、ある日、自分のことをお父ちゃんと呼ぶ少年ケン坊がつきまとい始める。ブルーフィルムの女を母ちゃんだと呼んだことから少年の母親探しが始まるが。。。

■日活出身の千野皓司という監督は、なかなか掴み所がない人で、日活が傾いてから監督デビューしたので映画界では良い待遇を得られなかった。石原プロに抜擢された『ある兵士の賭け』ではPとの対立から降板してしまい、映画界からは遠ざかる。むしろユニオン映画製作のテレビ映画で頭角を現し、売れっ子になった。でもその後、テレフィーチャーの時代になって急に充実期を迎え、『密約 外務省機密漏洩事件』『滋賀銀行九億円横領事件 女の決算』『深川通り魔殺人事件』などの実録路線で傑作を連打した(実は未見!)この頃の活躍がなんといっても絶頂期だろう。でも個人的には赤川次郎原作の軽サスペンス『ママに殺意を』が忘れがたい。市毛良枝が絶妙に色っぽかった頃の傑作。(もう一度観たいなあ)
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■さて、本作はノーベル書房の映画製作プロダクションであるノーベルプロダクションが製作、日活配給なので、外部作品だけど、スタッフは日活の第一線。友田Pなので、今村組スタッフが取り組んだが、釜ヶ崎で長期ロケを行ったため、途中で製作費が切れて撮影中断となった。中平康も『当たりや大将』で釜ヶ崎ロケを敢行して苦労したわけで、現場では当然いろんなことが起こるわけです。ただ、姫田キャメラマンはなんといっても、モノクロ撮影に妙味があるので、これもモノクロで撮るべきだった。予算や現場的な制約で照明効果などかなりラフなのでね。モノクロで撮れば、確実に映画の格が上がったと思う。
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■インチキ新興宗教をでっち上げたり、政治家のニセモンを演じたりのコミカルなエピソードは意外と冴えなくて、そこは千野皓司の資質の問題かもしれない。でも後半に謎の少年が登場するあたりから急に描写が生き生きとしてくるが不思議。ロケ撮影(車載の長廻し!)にもなんだか気合が入ってくるし、冒頭に置かれた不発弾のエピソードの発展や演出も意表を突くし、グッと真剣味が増してくる。邪魔な子どもをどうしようかと仲間で話し合うと、◯◯しちゃうんだよねということが、ある意味当然の選択肢のようにみんなの気持ちに現れてくるのが実に怖い。でもこの当時の人権状況を如実に表現しているわけです!当時はこんな感じだったんですよ。いや、今も?
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■終盤になって映画のテーマがストレートに表出されるあたりが圧巻で、アメリカに隷属する現実の日本の姿と、戦争はまだ終わっていない、当時の(今も?)現実をフランキー堺が打ち出す。もちろんフランキー堺の配役には『私は貝になりたい』とか『世界大戦争』とかのイメージが付託されている(はず)。誰が少年を◯◯したのか?ゲバルトは学生運動の専売特許やあらへんで!でも林光の意外にも楽天的な楽曲が、妙に希望に溢れたラストを彩るのは、1969年の高度経済成長期の日本の余裕なのだ。ほんの3,4年後には『日本沈没』で『ノストラダムの大予言』なので、終末思想に覆われることになる。まだまだ、お気楽ないい時代だったのだ。

■伴淳の娘でストリッパーを演じる川喜多純子という女優が凄い実在感なんだけど、これ一作しか出ていないようだ。どこから連れてきたのか?一方、梶芽衣子まで脇役で出ているけど、随分ひどい扱いで、よく出たよなあ。


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