地獄の底から”アレ”が来る!怪獣の出ない怪獣映画だった、わくわくホラーの快作『来る』

基本情報

来る ★★★☆
2018 ヴィスタサイズ 134分 @DVD
原作:澤村伊智 脚本:中島哲也岩井秀人、門間宣裕 撮影:岡村良憲 照明:高倉進 上野敦年 美術:桑島十和子 音楽: 坂東祐大ほか VFXスーパーバイザー:柳川瀬雅英、桑原雅志 監督:中島哲也

感想

イクメンパパを偽装する男(妻夫木聡)の周りで怪奇現象が頻発する。子供のころの隠蔽した記憶の底に残るあの出来事が関係しているのか?親友の民俗学者青木崇高)が胡散臭いオカルトライター(岡田准一)経由で紹介してきたのは、霊媒能力があるというキャバ嬢(小松菜奈)だったが。。。

■なんとなく怪作という噂は聞いていたのだが、これはなかなか見どころのある怪奇映画、いやオカルト映画の力作だった。でも、怪奇映画としての肝心なところは意外と冴えず、怪異描写など新味はないし、そこを見せたいという映画ではない。むしろ、怪獣の出ない怪獣映画に見えるし、子どもを媒介として、人の心の地獄を覗き見る地獄映画の系譜に見える。そして、怪奇映画としてではなく、怪獣の出ない怪獣映画、地獄映画として成功している。

■そもそも『ぼぎわんが来る』という原作小説の映画化なのに、「ぼぎわん」は描かれない。「ぼぎわん」がなにかという謎解きや、説明も無い。だから怪奇映画ではない。でもテーマは明快で、古来より現世と異界をつなぐ境界的な存在でありつづける子どもという不思議な存在とおとなの関わりであり、子どもに対する罪悪感が、おとなの心を地獄に引き寄せる。文字通り三途の川が登場するので驚くけど、中川信夫の『地獄』とか神代辰巳の『地獄』や石井輝男の『地獄』の系譜。

■映画としての美点は妻夫木聡黒木華岡田准一の心の地獄がちゃんと描かれているところで、怪異描写の平凡さに比べて、こちらの方に力が入っている。さらに、霊媒キャバ嬢の小松菜奈はすごい化け方だし、最終的にその姉である大物霊媒師として丹波哲郎クラスの存在感で松たか子があっぱれな怪演を見せる。こうした漫画的なありきたりな役柄はたいてい安易な描写になって、全く説得力を持たないのだが、本作の松たか子の演技は完璧で、わが国の霊的防衛に関するプロフェッショナリズムの存在を納得させてしまうから凄い。このキャラクターには『ガメラ3邪神覚醒』の山咲千里も入り込んでいるし、もうひとつの『帝都物語』かもしれない。

■大物霊媒師の登場は後半に物語をヒートアップするし、アレの霊的誘導及び迎撃作戦のサスペンスは完全に怪獣映画の呼吸で、燃える見せ場で、伊福部節が流れないのが不思議な感じで、アレを迎え撃つために全国の霊能者が招集される場面も、噂には聞いていたけど、確かに凄い。三軒茶屋ババアでおなじみの柴田理恵が、また新たな怪演レパートリーを見せるし、なにしろまあ見事な配役。三軒茶屋ババアのキャリアは伊達じゃなかった!アレのお祓い大作戦はほとんど”祭り”として演出されていて、”祭り”が”祀り”であった記憶を呼び覚まし、波及して、そもそも怪獣映画が怪獣の襲来とお祓いを描く、つまり怪獣を祀る、”お祭り映画”であることを自覚させる。

■そういえば『進撃の巨人』は当初中島哲也が大幅にアレンジして映画化する計画だったので、実現すれば凄かったかもしれないなあ。意外と怪獣映画要素が反映していたのじゃないか。本作の場合は「ぼぎわん」をストレートに描いてしまうと完全に怪獣映画になるので、それを避ける意図があったのではないかな。まあ、原作小説を読んでいないので、詳細は不明だけど。ちなみに2016年『シン・ゴジラ』以降の東宝映画ですね。


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