基本情報
八月の濡れた砂 ★★★
1971 スコープサイズ 91分 @アマプラ
企画:大塚和 脚本:藤田敏八、峰尾基三、大和田竺 撮影:萩原憲治 照明:大西美津男 美術:千葉和彦 音楽:むつひろし、ぺぺ 監督:藤田敏八
感想
■なんとなく、大昔の伝説の深夜ラジオ「林美雄のパック・イン・ミュージック」のおかげで伝説の名画になってしまった感があるのだが、それほどまでに傑作かというと、何度観ても疑問に感じるのだ。主題曲や石川セリの主題歌は確かに傑作なので、なんとなく刷り込まれてしまうのだけど。
■そもそも企画は大塚和で、劇団民藝&民芸映画社の系統で社会派リアリズム映画を製作していた人で、藤田敏八を監督デビューさせたのもこの人。なので、藤田敏八も最初は日活&民芸路線で映画を撮っていた。だから基本的にはリアリズムの人だったはずだが、助監督として蔵原惟繕に師事していたこともあり、感覚派、シュールリアリズム派の一面もある。監督デビュー以降は、独特の脱力感覚で正統的な作劇を脱臼させる方向で、現場でのアドリブ的な演出を加速してきた。本作もその意味では、藤田敏八のそうした脱線&倦怠演出路線に属する。
■海とヨットの物語は、裕次郎とともに成長してきた新生日活の基礎であり、湘南や葉山の海岸風景は日活映画の象徴的アイコンであり、数々の映画に登場してきた。ロマンポルノへの路線転換直前、その掉尾を飾るべくすべての発端である『狂った果実』と呼応するように日活映画の歴史を締めくくった生真面目な映画である。
■でも大塚和は裕次郎らの日活A面番組は製作していないので、本来は水の江滝子が製作すべき映画にも思える。実際、西村昭五郎で本作のプロトタイプにも見える『帰ってきた狼』を1966年に製作して、いち早く夏の終りを刻印しているから、なんで大塚和がという不可思議さは拭えない。素直には納得できない脚本は、大塚和が日活で敷いてきた路線からははみ出しているようにみえる。まあ、藤田敏八も参加していた蔵原惟繕の『愛の渇き』という映画があって、シュールに飛ばしすぎたため、1966年に完成していたのにしばらくお蔵になる事件があって、監督も大塚和も日活での足場を危うくしてしまった経緯があり、古典的ドラマツルギーが変質しつつあったのは確かだけど。
■正直なところ、ヨットの上で展開される男女四人の終盤のドラマはどういうドラマツルギーなのかよくわからないので、評価不能。それに比べると西村昭五郎の『帰ってきた狼』のヨット炎上は非常に分かりやすくオーソドックスな作劇。そのまんま三島由紀夫の『炎上』だからね。
■当時14歳というテレサ野田はさすがに魅力的で伝説のアイコンだけど、その姉役で散々な目に合うのが藤田みどりで、公開順からえいば『血を吸う眼』の後の撮影らしい。『血を吸う眼』は適役で過不足がなかったけど、改めて観ると本作はなんとも粉っぽく毛羽立って見えるのは残念。
www.nikkatsu.com参考
▶西村昭五郎の幻の監督第二作『帰ってきた狼』は、あきらかに『八月の濡れた砂』のプロトタイプ。
maricozy.hatenablog.jp
▶その昔、藤田敏八は邦画好きの若者たちのアイドルだった。
maricozy.hatenablog.jp
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藤田みどりと江美早苗のコンビは良かったよね。全く似てない姉妹だけど。
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