日本のドキュメンタリー産業・技術編『潤滑油』『ある機関助士』『68の車輪』『超高層のあけぼの』

『潤滑油』


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■1960 25分 脚本:吉見泰 撮影監督:小林米作 演出:竹内信次 照明:田畑正一 音楽:池野成

■硬い金属の擦れ合う間にぬるっと入って、摩擦を減らす潤滑油とその効果を持続する様々な添加剤の大活躍を紹介する産業映画だけど、音楽が池野成なので終始不穏な雰囲気に包まれる異色作。中盤には『白い巨塔』のテーマ曲も聴けます。

■基本的に綺麗にかつ重厚に撮ることを意図していて、工場での照明もバッチリ。なにしろ劇映画のライトマンを起用している。摩擦を吸収して汚れて酸化した潤滑油の顕微鏡映像など、アブストラクトでシュールな映像も見どころで、独特のトリップ感覚も味わえて、60年代後半のドラッグ感覚を先取りしているかも。

■映像はがっちりと構えて硬派なんだけど、イメージ映像的な印象も強くて、相当な異色作という感じですね。

『ある機関助士』


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■1963 37分 脚本&監督:土本典昭 撮影:根岸栄 音楽:三木稔

ウィキペディアによれば、もともと1962年の三河島事故特捜最前線の傑作回があったなあ!知ってる?)を受けて、国鉄がその安全性を宣伝するために企画した宣伝映画だが、岩波映画が(がんばって)落札し、土本典昭がデビューした重要作で、その筋(ドキュメンタリー畑)では有名な映画らしい。受賞歴多数なのだ。

蒸気機関車の機関助士を主人公として、国鉄労組の協力も得て、当時の国鉄の労働現場や労働環境がリアルに描かれるので、これは今見ても新鮮に感じる。機関士との会話も、先頭車両は吹きさらしで轟音に包まれるので、大声&独特の手振りサインで行われる。当然、労働者はばい煙にさらされて煤だらけになる。石鹸でごしごし顔の黒ずみを落とす場面なども、当たり前の記録だが、妙に強く印象に残る。それが映画なのだ。

■操車場でおじさんがポイントの切替器を、両方の手足でフルに使って踊るようにして操作する場面なども、初めて観たけど、凄い労働であり、技術だし、非常に映画的なシルエットとアクションなので感心した。主役じゃないけど、土本監督も現場で観て、これは撮らねばと思ったに違いない。まるで宮崎駿の映画みたいなのだ。

■純粋な宣伝映画ではないし、左翼系映画でもなく、純粋なアート映画でもない不思議なポジションを開拓してしまった映画だな。

『68の車輪』


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■1965 32分 脚本:吉見 泰 演出:森田実 音楽:山本直純 撮影:入沢五郎、春日友喜、加藤和三 照明:田畑正一、土田定夫 解説:城 達也

日本通運シュナーベル式トレーラで、東電が発注した巨大な変圧器を発電所まで運搬する様子を記録した重厚な記録映画。

■なにしろ超重量なので、途中の木橋やあぜ道を全部補強しないと通れないから、その補強作業を並行して行いながら、何日もかけて時速2キロとか5キロの低速走行を続ける。その巨体の通過する田園風景は、今では想像もできないのどかさだ。

■なにしろ、巨大トレーラは、そのまま東宝特撮映画やサンダーバードの超兵器に見えるから、ドキュメンタリーなのに、ミニチュア特撮に錯覚するという変な感覚を味わう。牧歌的な農村の細道を、長大な鉄の塊が通過するだけで心躍るのは、特撮者の性だろうか。音楽を伊福部昭に差し替えれば、完全に特撮映画のワンシーンになるはずだ。途中で何箇所も通行の難所があり、ひとつひとつクリアしてゆくサスペンス映画でもある。まるで『恐怖の報酬』ですね。

■その運転手や補強工事を行う人足といったはたらくおじさんの姿を描いた労働映画でもあるし、野次馬の大人やこどもたちの姿も貴重な記録だよね。そして、本作品もその筋では有名作らしいです。

『超高層のあけぼの 霞ヶ関超高層ビル・第1部』

■1966 27分 脚本&監督:板谷紀之、石松直和 撮影:大野洋、賀川嘉一

■日本の超高層ビルの嚆矢となった霞が関ビルの構想段階を描く第1部で、第2部は未見です。ちなみに、このあとで関川秀雄監督が劇映画『超高層のあけぼの』を撮りますが、別の映画です。でも製作母体は鹿島建設なので、姉妹作とでもいいましょうか。

■これまでのように狭い敷地に容積率ぱつぱつの建物を建てるんじゃなくて、建物の周囲に余白を作って環境や交通や人流に配慮するためには高層化して容積を確保するしかないということで、法規制が緩和されて、霞ヶ関にでっかいビルが建ちました。『怪獣総進撃』では早速ファイヤードラゴンの餌食になりました。その前にはシーボーズも登ってましたね。(未完成なのに)

■見どころは、耐震性能や風の影響などを当時のコンピュータや模型でシミュレーションする場面とか、周辺の公園の様子の模型が妙にかわいいといったあたりが印象的ですね。この映画は非常に癖のない、誰にもわかりやすい、楽しい映画なので、万人向けですね。これに比べると『潤滑油』とか『ある機関士助士』は、アート系に見えます。

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