ヒロシマで、オキナワで、そして世界のどこかで。戦後75年特集『戦争童画集~75年目のショートストーリー~』

■新型コロナ禍のさなか、2020年夏に放送された特集ドラマ。吉永小百合が詩を朗読し、長澤まさみ加藤健一、蒼井優、芋生悠、黒島結菜、橋本環奈らが出演する超豪華な特番。音楽:坂本龍一、脚本&演出:山田洋次(「あの日」「こんばんは」)、脚本&演出:松居大悟(「よっちゃん」)

■広島原爆投下の日に目撃した爆心地の情景を長澤まさみが語る「あの日」、全身やけどで死にかけた孫娘のためにみかんの缶詰を求めてさまよう老人を加藤健一が語った「こんばんは」は、どちらも熱演でしっかり泣かせて、やり場のない怒りに震える。でも「こんばんは」の蒼井優は導入部を語るだけで実に勿体ない。誰よりも上手いのに。この2作は、舞台中継スタイルの演出。

ひめゆり部隊の女生徒を黒島結菜と芋生悠が演じる「よっちゃん」は小規模だけど沖縄現地ロケで、映画『ひめゆりの塔』『あゝひめゆりの塔』で観たことのある情景がリアルタッチで描かれる。よっちゃんは芋生悠で、腹を負傷して、腸が飛び出したまま末期の水を飲むと「天皇陛下万歳」と呟いて息絶える。『ひめゆりの塔』では同様の場面をやせ衰えた兵士が迫真の演技で演じていた。麻酔もないまま切断された手足をバケツに集めて、黒島結菜が避難壕から捨てに行く場面では、半ば狂った兵士がそれうまそうだなと声をかける。もちろん、リアルな実録だ。黒島結菜は、ほとんど初めてみたけど、実に筋の良い女優だな。

ひめゆり部隊の悲劇は何度も映画化されているけど、その意味では本作は一番リアルだったかもしれない。日活映画『あゝひめゆりの塔』では吉永小百合もその出来に忸怩たる思いだったから、この小品に対してどう感じただろうか。誰かもういちど、長編映画化しないだろうか。それこそ黒島結菜の主演でいいのでは。他にも出たい女優は少なくないと思うけど。

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