感想
■スコープサイズかと思いきや、なんとヴィスタサイズで、IMAX上映をデフォルトと想定しているようだ。今どきだなあ。さて。
■ダニー(オーランド・ブルーム)は、ゲーム「グランツーリスモ」の覇者を実際のレーサーに育てるという「GTアカデミー」を思いつくと、日産本社にプレゼン、コーチとして元レーサーで現役を退いたジャック(デヴィッド・ハーバー)を起用する。英国の労働者階級のゲーマー青年ヤン(アーチー・マデクウィ)は過酷な選抜を勝ち抜き、遂に実地のレースに出馬するが。。。
■という、実にシンプルなお話で、実話。実際映画も非常にオーソドックスに良く出来た映画になっている。監督はニール・ブロムカンプなので心配したけど、誰が観ても納得の王道娯楽映画。ハリウッド映画らしいハリウッド映画といえるだろう。昨年は日本映画で、ほとんど同じようなお話の『アライブフーン』が公開されたが、その劇中でもヤンの実話が言及されていた。『アライブフーン』は知られざる快作で、CGを使わず、かなりクレージーな撮影が行われて観客の度肝を抜いたけど、本作は大メジャーなので、なにしろ製作費が100倍くらいかかっている。
■「GTアカデミー」の発案者のダニーは、一番の重要人物ではあるけど、かなり優柔不断な人物として描かれ、けっこうぶれまくる。一番優秀な成績を残したけど、マスコミ対応に心配があるのでヤンじゃなくて、二番手が合格でいいんじゃない?とか平気で言い出す。対するコーチ役のジャックはコレと決めたら一途な硬骨漢で、自分自身の事故体験を踏まえてヤンを人間的に成長させる。この二人の掛け合いがドラマ的な綾になるのだが、これは『フォードVSフェラーリ』の人間関係を踏襲しているかも。ただ、それほど成功していない気はする。特にダニーの人間性がいまいちピンとこない。これはジャックの引き立て役という意味合いを優先したせいかもしれない。
■とにかくお話は軽快にサクサク進むので、ホントにこれでドラマになるのかと心配するけど、後半にちゃんとヤンとジャックの間で、ヤンと父親の間でドラマが成立しているので、娯楽映画としては上出来。あまりこてこてに作劇していないのも、美点に思えてくる。ヤンのニュルブルクリンク24時間耐久レース事故を受けて、お前の価値はこれから何をするかで決まるんだと大人のアドバイスをするのも、定石ながらグッと来るし、クライマックスで、お前だけに見える、お前だけのコースを走れ(意訳)とサラッと映画のテーマを差し出して見せるあたりは、さすがに感動的。大きな声で叫んだり、泣き叫んだりしませんよ、映画において大事なことはサラリとさり気なく差し出すものなのだ。
■その意味では、意外にも見応えがあるし、カタルシスも大きい快作。もちろんレース場面はIMAX上映を意識して豪快に撮られているけど、なにしろ大予算のハリウッド映画なので危なげがない。でもそこは『アライブフーン』が勝負をかけたところで、低予算ながら作戦勝ちの部分。なにしろ撮影のクレージーなメソッドに圧倒されるし、ドリフト勝負というマニアックさも稀有のものがある。それに、あれは陣内孝則が良かったよね。(本田博太郎が良いのは言うまでもない)でも実は『グランツーリスモ』もノーCGにはこだわっていて、実写での撮影に相当執着しているらしい。映画職人たるもの、誰しも考えることは同じだね!
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■ちなみに、日本語吹き替え版はエンディングでT-SQUAREの「CLIMAX」が大音響で流れるのも聞きもので、たいそう気分良く映画館を出ることができる。日本語吹き替え版はいろいろ気になる部分もあるけど、これは聞きもの。シネコンの帰りに飛ばしすぎないように、要注意だ!