激動の昭和史 沖縄決戦 ★★★

激動の昭和史 沖縄決戦
1971 スコープサイズ
レンタルV
脚本■新藤兼人
撮影■村井 博 照明■佐藤幸次郎
美術■村木与四郎 音楽■佐藤 勝
特殊技術■中野昭慶
監督■岡本喜八


 昭和20年、サイパン島が陥落し、本土防衛の最前線と化した沖縄に、第32軍が増強されるが、大本営と作戦方針の不一致を生じ、さらに最精鋭部隊の第9師団を台湾に抜かれてしまう。大本営は沖縄を本土決戦の捨石と判断したのだ。圧倒的な物量で大挙上陸してくる米軍に対し、沖縄は軍民挙げての総力戦を展開するが、県民の1/3を喪う犠牲を余儀なくされる。

 小林桂樹丹波哲郎仲代達矢の3人が演じる第32軍の司令部を中心として、対馬丸ひめゆり部隊戦艦大和特攻等の悲劇を満遍なくちりばめて、沖縄戦の凄惨な実情を概観する戦記大作。

 監督自身は制作費の少なさを嘆いているのだが、東映の大作「ああ決戦航空隊」と比較すれば、美術セットの充実度やスケール感、キャメラの秀逸さ等々、東宝ならではの長所が明らかになるのだが、エピソードの羅列に終始し、映画自体が明確な主張を持たないという欠点が際立つことになる。

 特に前半部分は米軍上陸にいたる部分のサスペンスと岡本組の常連たちによる個性的な脇役の数々がオフビートな編集で活躍して、「日本のいちばん長い日」というよりも「肉弾」に近い雰囲気を醸し出す点がユニークで、新藤兼人の脚本に岡本喜八がかなり手を入れたのではないかという印象すらおぼえるほどだ。各俳優たちの個性を短いシーンで印象的に刻み込む岡本喜八の演出は絶好調といってもよく、アニメ全盛の今見ても新鮮なカッティングの技を堪能できる。

 しかし、休憩を挟んで後半は自決、玉砕の連鎖で、ドラマ性は希薄になり、作戦行動もなにも無いに等しく、退却に継ぐ退却で、ただただ屍の山を築いていくばかりで、映画としての魅力には乏しい。史実をそのとおりに撮っているのは確かだが、笠原和夫であればドラマの求心性を見失うことはなかっただろう。

 中野昭慶の特撮は沖縄の高空からの空撮という想定で、米軍の大艦隊の接近をミニチュアワークで描き出し、「日本沈没」の同様の場面の予行演習となっているが、爆撃の閃光が小さく明滅する様は、こちらのほうがむしろリアルである。

 大和の特攻出撃も同様に高空からの空撮というスタイルで、低予算ぶりをうかがわせる。

 前半部分は岡本喜八の映像様式と豪華な配役が相まって意外なほど娯楽映画としてはよく出来ているのだが、後半に集約する部分を欠いているのが苦しいところだ。

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