対馬丸から米軍統治まで…もうひとつの『沖縄決戦』が存在した!『沖縄の民』

基本情報

沖縄の民 ★★★☆
1956 スタンダードサイズ 96分 @アマプラ
企画:児井英生 原作:石野径一郎 脚本:古川卓巳 撮影:間宮義雄 照明:森年男 美術:松山崇 特殊撮影:日活特殊技術部 音楽:佐藤勝 監督:古川卓巳

感想

■こんな映画があったとは!しかもアマプラで見放題!日活さんありがとう!以上、素直な感想です。

岡本喜八の『沖縄決戦』は今や庵野秀明のお気に入りという意味で有名になっているが、公開当時はかなり厳しい批判にさらされ、沖縄問題に対する認識の浅さを非難され、決して評価は高くなかった。そもそも東宝オールスター映画で、沖縄ロケもせずに沖縄の悲劇が描けるはずがないというのが大方の見方だった。実際他の岡本喜八の傑作映画に比べると魅力に乏しいしね。

■でもすでにその十数年前にもうひとつの『沖縄決戦』が製作されていたのだ。本作『沖縄の民』は東宝戦記映画らしく巨視的に沖縄の悲劇を描く『沖縄決戦』とは異なり、あくまで沖縄の民衆の視線から激烈な地上戦を描く。もちろん、昨今の戦争映画のように戦地の残酷絵巻をむごたらしく直截に描写することはない。当然返還前の沖縄でロケは行っていないし、実際の沖縄県民や沖縄の役者が演じるわけでもない。

■その意味では、明らかに『ひめゆりの塔』の興行的成功を意識しながら製作されているが、ドラマ性は薄く、むしろセミ・ドキュメンタリーのような淡々としたタッチで、沖縄の民衆が経験した悲劇を列挙する。主人公は二人おり、小学校教諭の左幸子、学徒動員される長門裕之の経験する沖縄決戦が並行して描かれる。

対馬丸事件から説き起こすのが異色で、対馬丸に乗船する予定で校長から慰留されて沖縄に残った女教師の左幸子が、遭難した子どもたちの親から石を投げられるエピソードなども生々しいリアリティ。責任を一身に背負った校長は自殺する。もそも対馬丸の船倉にギュウギュウ詰めにされた子どもたちが轟々たる海水に飲まれるさまをストレートに描き出した場面のリアリティはさすがに凄い。沖縄の民が経験した悲惨が淡々と列挙される構成で、火薬の量がほとんど実際の戦争レベルで唖然とする。

■さらに終戦後の沖縄の姿まで描きこんだのは価値があり、左幸子が小学校に復帰して沖縄も日本である、いや日本になりたいという教育をすすめるなかで、子供の声が戦闘機の爆音にかき消されるラストシーンは鮮烈な幕切れで、淡々とエピソードを積み重ねてきた本作のなかで唯一明確なメッセージを発した場面。まことに立派な映画なのでびっくりしました。今井正の『ひめゆりの塔』には及ばないものの、『沖縄決戦』よりも沖縄の心を伝えている気がする。沖縄の人間じゃないから、ホントのところは分からないけれども。

■日本軍関係者を演じるのが二本柳寛や安倍徹なので予想通りに役たたずで、沖縄の民にとっては迷惑千万な存在。教え子たちを学徒出陣させた校長の信欣三はその大半を戦死させ、忸怩たる思いとともに戦火に倒れる。日活映画では大活躍の信欣三だが、本作はさすがにはまり役で当時の戦地から抜け出たような異様なリアリティだ。
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