ひめゆりの塔 ★★★★

ひめゆりの塔 [DVD]
ひめゆりの塔
1953 スタンダードサイズ 130分
DVD
脚本■水木洋子
撮影■中尾俊一郎 照明■平田光治
美術■久保一雄 音楽■古関裕而
監督■今井正

■何故か神山征二郎の「ひめゆりの塔」は劇場で観ているのだが、本家本元の今井正版をとうとう観る事ができた。なにしろ悲惨な事件を描いているので堅苦しくて息苦しい暗い映画という先入観があって、今までなんとなく避けてきたのだが、このところ今井正の映画を連続で観ていると、どうもそんなことはないのじゃないかと思い始め、やっと観る決心がついた次第。なにしろ昭和28年の映画なので、ストレートな残酷描写やグロテスクな肉体破壊等は当然出てこないのはわかっているものの、なんとなく気が重かったのだ。
■しかし、これは予想以上の傑作じゃないか。この前、舛田利雄の「あゝひめゆりの塔」は観ていたのだが、これは全く心に響かない凡作であり、今井正版とは天と地ほどの開きがある。本作では水木洋子今井正の相性の良さを再確認した。根本的に沖縄ロケなしで、本土の俳優によって沖縄の悲劇を描くという時点で無理がある企画であるのは確かだが、それでもここには普遍的なテーマが語られている。しかも、その語り口が非常にユニークなものである。非戦闘員が戦闘に巻き込まれてゆく様の無残さを、今井正ならではの鮮烈な叙情性と淡々としたリアリズムで掘り下げてゆく。
■特に驚嘆したのは藤田進演じる人情派の軍医の人物造形の鮮やかさで、本作の真の主人公はこのキャラクターではないかと感じたほどだ。クライマックスでの豹変ぶりの恐ろしさは戦争そのものの残酷さと恐怖を強烈に表現している。このあたりの鮮烈な演出ぶりは、今井正の活劇志向(?)を端的に表している。「あれが港の灯だ」「仇討」といった今井正活劇に通じるものがここにも刻印されている。今井正はメロドラマの名手でもあり、実は活劇の名手でもある共産党員監督なのだ。
野戦病院の無残な地獄絵図などもむしろ淡々とした表現で描くことによって個々のエピソードの感動は深まっている。負傷兵が女学生に水をもらって丁寧に礼を言い、「大日本帝国万歳」と言い終えないうちに息絶えてゆくシーンなど、本当にさらりとした演出なのだが、戦争の惨さや兵士の無念の思いや、大日本帝国への呪詛や、いろんな思いが一瞬のうちに重なりあって胸に迫る見事なシーンだった。しかも、こうした秀逸な描写がほかにも多々散りばめられているのが、この脚本と演出の凄いところで、キャストやスタッフはほとんど東宝系だが、非戦闘員、一兵卒の生々しい思いを多層的に塗りこめているところは、やはり東映的というべきなのだろう。その系譜のうちに笠原和夫の戦争映画が登場することになるのだ。本作の後に連なるのは、8・15シリーズではなく、やはり笠原和夫の「二百三高地」であり「大日本帝国」であろう。