原爆の子 ★★★

原爆の子
1952 スタンダードサイズ 98分
DVD
脚本■新藤兼人
撮影■伊藤武夫 照明■?
美術■丸茂孝 音楽■伊福部昭
監督■新藤兼人

■瀬戸内の小島から故郷の広島に渡った女教師が原爆で生き残った教え子3人の暮らしぶりを心配して訪ねる。一方、かつての使用人は原爆で片目を失明し乞食となっている。その孫を島に連れ帰って保護するために、懸命に説得を重ねるが・・・

新藤兼人の日本映画史に残る傑作という評価だけをかねてから聞いていたが、今回はじめて観た。うーん、正直なところ傑作とは言えないなあ。当時、製作自体がひとつの事件であったことは十分に理解できるが、劇映画としてはあまり褒められない。原爆使用の非道さが十分に表現できているとは思えない。

■第一に、滝沢修演じる原爆の悲惨を視覚的に体現した老人には製作者の意欲がうかがえるが、終盤の孫との別れの嘆きを延々と引き伸ばす作劇には感心しない。確かに、そうした見せ場は必要だが、やりかたが上手くないから、ちっとも感動しない。そういう意味では木下恵介の「この子を残して」の方が遥かに傑作。日常生活の演出ぶりが格段に素晴らしいし、クライマックスの惨劇場面では素直に感情を揺さぶられる。そして、直截なメッセージが素直に心に刻まれる。さらに言えば、佐々部清の「夕凪の街桜の国」の強烈なメッセージ性にも及ばない。

■しかも、伊福部昭の劇伴も何故かあまり冴えない。こちらとしては、伊福部昭の音楽が盛り上がるだけで泣く体制ができているというのに、ちっとも心に響かない。

■ちなみに、豊田四郎の有名な傑作映画で「小島の春」というのがあるのだが、この映画は「小島の春」を下敷きにしていると思う。新藤兼人もきっと見ているはずだし、お話の大枠がほぼ同じ。瀬戸内の小島から来た女が家族を説き伏せて誰かを島に連れて帰る話なのだ。「小島の春」の場合はらい病患者の強制隔離政策を肯定的に扱ったので、後年激しく批判されることになったのだが、「原爆の子」では原爆症で余命いくばくも無い老人から孫を保護して小島に連れ帰る。新藤兼人は「小島の春」を裏返しにして使っているのだ。

■さらに、滝沢修がケロイドの特殊メイクで演じる乞食老人のイメージはほぼそのまま「帰ってきたウルトラマン」の怪獣使いと少年」の金山老人のイメージに繋がっている。その前には「フランケンシュタイン対地底怪獣」にもその影響を残していると思うし、特撮映画の思想的な背景に多くのインスピレーションを与えた点は見逃してはならないだろう。一本の映画としては未成熟だと思うが、その影響力の大きさの方に注目すべき映画だ。

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