熊井啓に捧ぐ!?終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』

■原作:熊野以素 『九州大学生体解剖事件 70年目の真実』(岩波書店) 脚本:古川健 音楽:小林洋平 VFXプロデューサー:結城崇史 演出:田中正

九州大学(劇中では西部帝国大学)医学部で実際に起こった米軍兵捕虜を人体実験で死なせた事件に関して、終戦後、東京裁判で裁かれるが、その時主犯の教授は獄中で自殺しており、実際は命令に従っただけの助教授が首謀者と認定されて死刑判決を受ける。だが、その妻は事実認定に誤りがあるとしてGHQに掛け合い、夫に嘆願請求を書くように求めるが。。。

■2021年にNHK名古屋放送局で製作された終戦ドラマをやっと観たけど、実に堂々とした大作で、巣鴨プリズンを映画なみの美術装置とVFXで描き出すので、ほんとにNHKはタガが外れている。お話は実にシンプルで、ストレート。テーマは明快だし、直接台詞で打ち出すタイプ。なぜなら脚本を書いた古川健って、現代史を扱った歴史劇で有名な劇作家だから。といっても、今回初めて認識しましたが。それにしても、本作の作劇はホントに古風な作風で、クライマックスの面会室で娘が叫ぶ場面なんて、いつの時代の作劇かと思いましたよ。ああそうか、まるで熊井啓だ!(そもそも『海と毒薬』で同じ事件を映画化してますからね)そこに伊福部昭の音楽が大音響でガーンと入るんですよ!(うそ)
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■なので、ドラマの見どころも俳優部の演技にかかっている。特に妻夫木聡蒼井優の演技合戦が肝になる。蒼井優は黙っていても上手いからいいけど、妻夫木聡はホントに難しい役に苦労したと思う。実際は生体解剖に手を貸していないけど、教授の暴走を止められなかったことを悔いて、共犯も同じだと自分を攻める潔癖な男。正直、潔癖すぎてリアルに感じられないけど、なにしろ実話なので、リアルに実在したのだ。そんな複雑で微妙な人間像をどう演じれば良いのか、大いに悩むはずだ。実際抑えめな演技でかなり健闘していると思う。でもいつまでも若く見えるのも役者としては辛いよね。

■助演ではいい役者ぶりの永山絢斗が好演する。しょうもない事件で干されてないで、早く復帰してほしいところだ。兄弟揃って逸材だからね。そして、まさかの辻萬長の登場。なんと本作が遺作だったそう。映像ではまだまだ元気そうに見えるんだけどね。。。合掌。

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