maricozy.hatenablog.jp
■さて、以前から気になっていた本を読みました。河出ブックスはコンパクトなので一気に読んじゃいました。「「核」の戦後精神史」というサブタイトルがわかりやすいですね。ゴジラ、鉄腕アトム、AKIRA、ナウシカ、戦後サブカルの推移の中に、原爆や原発に関する日本人の考え方がいかに変化してきたかが、わかりやすく解説されます。
■そのなかでは、当然に脚本家木村武(馬淵薫)について言及されます。実は某氏の手になる未刊行の馬淵薫に関する評伝の原稿が手元にあるのだけど、一部経歴が間違ってますね。『空の大怪獣ラドン』で共産党佐賀支部での労働争議の指導体験が反映されていると書かれてますが、これは佐賀ではなく滋賀の間違いでしょう。馬淵薫は佐賀には行ってません。しかも滋賀には炭鉱争議はないので、完全に勘違い。木村武こと馬淵薫が共産党のオルグ活動を実施していたのは大阪や滋賀だったはずです。馬淵薫って不思議な人で、戦前、戦中の青春期の経歴については共産党、関西新劇関係の人脈で、活動家、新劇人としてはかなり資料が残っているのに、映画関係の資料が乏しく、上京して脚本家になってからの動静を知る人が少ない。いちばんよく知っているのは関西大学で馬淵薫の後輩だった田中友幸なんだけど、誰も詳細を聞き取る事ができなかった。
■更に驚いたのは、『長崎の鐘』『この子を残して』でおなじみの永井隆博士のマッドぶりですね。これは全く知らなかったので、衝撃でした。単に長崎で被爆しながら医療に尽力したキリスト者という単純なイメージだったのですが、もともと放射線研究の虫で、自分が使用している放射性物質で被爆していずれ発病することも認識しながら、でも放射線おもろ!で研究に専念、長崎原爆で妻は爆死し、自分も被爆するのに、それでも放射線研究が棄てられず、アメリカを恨むどころか、これは神が人類に与えた、枯渇しない新しいエネルギー源だ、神がそれを人類に教えてくれたのだと考えるに至る!こんなにマッドな人とは知らなかった。面白すぎるじゃないか。あまりに深すぎる絶望が、狂気を免れるためにそんな自己欺瞞の方便を編み出した、悲劇的な人物なのかもしれないけど、木下惠介の『この子を残して』ではそこまで描かれていたかなあ?