特撮研究①:馬淵薫はホントに『砂の香り』の脚本を書いたのか?

はじめに:特撮研究

ケロヨーン!...特撮愛好家・真利光史です。
さて、特撮愛好家という肩書のくせに、ちっとも特撮関連の記事を書かないことで有名なわたくしですが、心を入れ替えて、ときどき特撮研究に関する記事を投下することにしましたよ。今回はその第一弾です。まずは、比較的軽い話題から探求してみましょう。しかも、いきなり『砂の香り』です。いったい、どこが特撮なんでしょうか!?

『砂の香り』とはどんな映画か

f:id:maricozy:20181105145244j:plain:w300:rightさて、みなさんは『砂の香り』という映画があるのをご存知でしょうか。1968年10月公開の東宝映画で、監督は岩内克己です。なんと芸術祭参加作品だったらしいです。
なんといっても浜美枝がヌードになったことで一部では有名な映画ですが、おそらくそのことがあだとなってテレビでも放映されず、名画座でも最近はあまりお目にかかれないし、上映されたとしても真っ赤に退色した雨の降るプリントしか存在しないという不遇な映画です。
内容的には、川口松太郎の『人魚』という小説を原作として、夏の渚で出逢ったわけありの人妻との禁じられた恋に身を焦がす青年の姿を、なぜか能を舞ったりする観念的な手法で描いた恋愛映画だそうです。ひょっとすると東宝映画なのに吉田喜重のATG映画の影響を受けたのかもしれません。そんな時代なんです。是非観たいものですが、地方在住者の哀しさで、未見です。

『砂の香り』脚本問題とはなにか

ところで、この映画の脚本を誰が書いたのかという問題があって、特撮愛好家の間では少し議論を呼びました。
なぜならWikipedia馬淵薫の項に『砂の香り』と作品名が書かれているためです。
この記事を読んでいる方に、馬淵薫についての説明は不要ですよね?『ガス人間第一号』とか『マタンゴ』を木村武名義で書いたあの異彩の脚本家です。戦前は関西新劇界の草創期のメンバーとして、その後は共産党の活動家として有名ですが、戦後東宝映画に関わり始めてからの方が謎が多いという不思議な人物です。本名は「馬渕」ですが、映画のクレジットでは「馬淵」の表記が多いですね。
東宝の斜陽期に馬淵薫がとうとうエロ映画を書いたのか?あるいは前衛的で観念的な恋愛映画を?確かに『ゴジラ対ヘドラ』がアレなだけに、ありうるかもと興味をそそる話題だったわけです。それはそれで観てみたい映画だったわけ。
しかし、本能的に何か違うぞと感じるわけです。東宝SF特撮映画と観念的な恋愛映画の間には深くて黒い川があるわけです。
そこでちょっと調べると、この記事の主な情報ソースはどうやら日本映画データベースであるようです。

情報源を探れ!

確かに、日本映画データベースによれば、『砂の香り』の脚本が馬淵薫岩内克己の共作となっています。
Wikipediaもおそらくこれを出展として書かれているのですが、ほんとうに馬淵薫が前衛的で観念的な映画の脚本を書いたのでしょうか。
しかも、事実上、田中友幸の座付き作家である馬淵薫が、小寺朝名義でじぶんで脚本も書く山田順彦プロデューサーと組むだろうかという素朴な疑問も浮かびます。
この映画はごくまれに東京の名画座にかかる程度で、観た人も非常に少なく、誤ったデータのコピペが繰り返されて、どうも混乱が生じているようなので、ここで整理しておきたいと思います。

データベースを調査してみた

ホントなら映画のポスターなどを参照すれば一発で解決するのですが、なにしろほぼ忘れられた映画でもあり、地方在住者の哀しさ、本物のポスターはお目にかかる機会がありません。ネット上のポスター画像も解像度が不十分です。。。
そこでインターネット上で参照できる映画関係のデータベースを調べてみました。
すると、日本映画データベースは「脚本 馬淵薫岩内克己」となっていますが、東宝のMOVIE DATABASE では「脚本 馬島満、岩内克己」となっています。はて、馬島満とは誰でしょうか?しかも、「ばばみつる」と読ませています。謎は深まります??
いっぽう、日本映画製作者連盟のデータベースでは「脚本 馬島満、岩内克己」となっており、東宝MOVIE DATABASEと同じデータを利用しているようです。
続いてMovieWalkerは、元々キネマ旬報のデータを利用しているはずですが、「脚本 馬嶋満、岩内克己」となっています。
なにやら藪の中って感じになってきましたが、少なくとも馬淵薫ではなさそうだという印象です。日本映画データベースだけが馬淵薫をうたっており、日本映画データベースのタイプミスじゃないかという気がします。
そして、困った時のキネ旬頼み。当時のキネマ旬報を確認するのが一番です。そこで目次を確認するとすべての疑問が解消しました。
なんと1968年10月下旬号に『砂の香り』の脚本が収録されているというのです!
キネマ旬報にシナリオが載るということは、当時それなりに話題を呼んでいたことの証左です。しかも、芸術祭参加作品だとか。低予算作品ではあるものの、当時かなり力を入れた話題作だったことがわかります。今となってはほとんど忘れ去られた小品ですが、当時の悶々たる思春期の若者たちの記憶の中には鮮明に残っているはずですね。(あまり話題にもならないのが不思議)
そこで目次検索によると「脚本 馬島満、岩内克己」となっています。同じデータを使用しているはずのMovieWalkerのデータベースの表記と異なるのが謎ですが、すくなくとも馬淵薫ではないことは断定して間違いないでしょう。

「ましまみつる」とは誰か

では、「ましまみるつ」あるいは「ばばみつる」とはどんな脚本家だったのでしょうか。
1967年にNHK劇場 愛のシリーズの懸賞ドラマ佳作入選作「バチ当り」で「馬場満」という名前が見つかります。出演が伊藤雄之助沢村貞子、太田博之、小川知子、田島義文、渥美国泰という豪華なラジオドラマです。さすがNHK
その後、テレビドラマデータベースによると、「馬島満」さらに「馬嶋満」として主にテレビドラマ、なかでもテレビアニメを中心として大活躍しているようです。『エースをねらえ!』『UFOロボ グレンダイザー』『ドカベン』『惑星ロボ ダンガードA』といったメジャータイトルが並ぶ売れっ子じゃないですか。しかも1967年のテレビドラマ『太陽のあいつ』では監督の岩内克己とコンビを組んでいます。後には『快傑ライオン丸』も書いてますよ、やっと特撮にたどり着いた!
『砂の香り』は、おそらく岩内克己が『太陽のあいつ』で組んだ若手脚本家を呼び寄せたのでしょう。
実際のところ、「ばばみつる」から「ましまみつる」の間には超えられない壁があるような気がするので、同一人物かどうかは不明です。
ひょっとすると女性で、結婚により改姓したのかもしれませんが、性別も不明です。メジャーなアニメをいっぱい書いているのにネット上にも詳細な情報が無いのが不思議です。

結論

あまり特撮っぽい話にはなりませんでしたが、『砂の香り』の脚本を書いたのは、馬淵薫ではなく、馬島満(馬嶋満)であったことは確実でしょう。つまり名前のうち「馬」しかあっていなかった!というのが、特撮研究①のお粗末な結論でした。
ああ、すっきりした。
一体誰がタイプミスしたんでしょうか。予測変換機能のいたずらじゃないかと思います。
さて、これにて読者のみなさまの溜飲は下がったでしょうか?ちっとも特撮じゃなかったけど!
それでは次回の特撮研究でお逢いしましょう!!バハハーイ!

参考

こちらのHPの記事が物語を詳細に記録してくれていて役に立ちます。(脚本が馬淵薫になってますが!)これを読むとパーフェクトに好物なお話なので、やっぱり観たい!ニュープリントでお願いしたい!監督が岩内克己じゃなくて、森谷司郎とか恩地日出夫とか出目昌伸だったらもっと成功していたかもと妄想するなあ。ロバート・マリガンの『おもいでの夏』よりも早いよ!
砂の香り

ちなみにこれは主題歌ですよ。これも是非聞いてみたい。

砂の香り (MEG-CD)

砂の香り (MEG-CD)

馬淵薫の活躍した時代は、本書で取り上げた1980年代以降の特撮映画史においては、前史という位置づけです。

馬淵薫といえば『マタンゴ』。『マタンゴ』といえばイメージソースが『ひかりごけ』にあることは、知る人ぞ知る事実(妄想?)
maricozy.hatenablog.jp