さらばラバウル ★★★

さらばラバウル
1954 スタンダードサイズ 106分
DVD
脚本■木村武、西島大、橋本忍
撮影■山田一夫 照明■猪原一郎
美術監督北猛夫 美術■阿久根巌 音楽■塚原哲夫
特殊技術■円谷英二渡辺明、向山宏
監督■本多猪四郎


 太平洋戦争末期、ラバウル航空隊の若林大尉(池部良)は鬼隊長と隊員たちに恐れられていたが、土民(根岸明美)と愛し合っていた野口中尉(平田昭彦)は敵機に撃ち落され、必死の救助もむなしく死に、若林大尉と張り合っていた片瀬大尉(三国連太郎)は猛空襲の夜、病院からさまよい出て狂ったように戦争を呪いながら死んだ。看護婦(岡田茉莉子)は彼が既に鬼ではないことを知りつつあった・・・

 鬼と呼ばれる冷徹な隊長が、同僚や部下の愛と死に直面するなかで人間らしい情愛の焔を取り戻してゆくが、その先に待ち構えるのはイエロー・スネークと呼ばれる敵の戦闘機だったという皮肉な心理劇を、秀麗なモノクロ撮影で捉えた異色作。田中友幸円谷英二本多猪四郎のトリオが揃った記念碑的作品だが、東宝の戦記映画としては珍しく内省的な作品となっている。木村武こと馬淵薫の色彩が濃厚に表れているのだろう。橋本忍との分業が気になるところだが、後半の池部良の心理描写が十分でなく、岡田茉莉子との急接近に今ひとつ説得力がないのが残念。

 敵のイエロー・スネークと呼ばれる戦闘機のパイロットが捕虜となって、日本軍のゼロ戦の弱点(装甲の弱さ、人命軽視の設計思想等)を冷静に暴き立てる場面は、とかく日本軍の行動を一方的に描く傾向の強い東宝戦記映画では白眉といってもいい名シーンだろう。その衝撃は池部良を男泣きさせるに足るものだ。

 円谷英二の特撮は、空戦シーンをスクリーンプロセスを多用して描くあたりに新味を見せる。決してスケールの大きな作品ではないが、ミニチュア機の背後にスクリーンプロセスで実景やミニチュアの風景を合成し、飛行の臨場感を演出する方法は、後に「太平洋の翼」でも試みられ、川北紘一が「大空のサムライ」でフロント・プロジェクションを導入してほぼ完成に達するのだが、この頃、円谷はまだ川北のように特撮の追加予算を捥ぎ取るような動きができるほどまでには東宝で戦後の地位を固めていないようで、ひょっとして「ゴジラ」が無ければ、他社に移籍していた可能性もあるのではないか、と思われるほどおとなしい仕事振りだ。やはり、戦記映画を作ることに対しては忸怩たるものがあったのではないか。

© 1998-2024 まり☆こうじ