感想
■なんとなく今まで観られずにいたと思いこんでいたのだが、ああ、これ観てますね。でもマーク・ウォルバーグの役柄なんて全く記憶になかったし、ブログにも記事を残していないので、あまり感心しなかったのは確実だ。実際、改めて観てもイマイチだった。
■1973年に実際に起こった大富豪ゲティ家の孫息子の誘拐事件と頭首ゲティの世界中が呆れたドケチぶりの顛末を実録映画として製作したものだが、映画的な脚色が成功していない。導入部分の時制を大胆に往復する編集はすこぶる気持ちいいのだが、終盤の展開はあまりリアリティを感じさせず、かなり安易な展開に見える。つまり、孫が開放されてからイタリアの片田舎の夜の街で助けを求めて彷徨するあたりの、ご都合主義的な展開のことだ。作劇的にはかなりラフな作りで、サスペンスもリアリティも生んでいない。
■ゲティ爺さんの因業なドケチぶりは見どころなのに、クライマックスで改心に至るエピソードの部分が十分に描けていないのが、一番の欠点だろう。そこが観客の興味の中心なので、クリストファー・プラマーとマーク・ウォルバーグのやりとりの1シーンの成否が肝になるが、正直腑に落ちない。
■孫息子は自分の跡取りにしたいと考えていて、愛情を注いでいたはずなのに、身代金の支払いについては頑なに拒むし、徐々に態度を軟化するにしても、節税対策も含めてとことん買い叩こうとする姿には、商売人の一種の哲学が内在しているはずで、単に吝嗇というわけではない。身代金の支払いに対して、適切な価格まで値下げ交渉もし、節税対策もし、家族としてではなく、冷徹な商売人としての職業倫理を全うしようとする姿には、一定のロジックがあるわけで、そこのところを観客の腑に落ちるように、一見ケチなだけに見える大富豪のその気持も理解できるなあ、というふうに描かないとドラマが深化しないのだが、デヴィッド・スカルパの脚本はそこまでの作劇に成功していない。だから、後半の展開が冴えない。
■そもそも、マーク・ウォルバーグの元CIAでゲティ家に雇われたネゴシエーターという役柄が十分に描かれず、この人物造形が不十分なのも映画を貧弱にしている。そもそも一度観ているのに、彼の役柄が全く記憶から抜け落ちていたのは、それだけ人物造形が弱いということなのだ。
参考
大富豪はドケチ虫!その日本版はすこぶるお面白い快作。山本薩夫の『傷だらけの山河』のことですよ。
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リドリー・スコットも結構当たり外れがありますね。『オデッセイ』とか『ワールド・オブ・ライズ』は良かったなあ。
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ドケチ虫といえば、これ。
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