消えたんじゃなくて、消されたんだ!異色の戦争映画『消えた中隊』

基本情報

消えた中隊 ★★★
1955 スタンダードサイズ 93分 @アマプラ
企画:星野和平 原作:井手雅人 脚本:黒澤明菊島隆三 撮影:三村明 照明:山下馨 美術:高田一郎 音楽:大森盛太郎 監督:三村明

感想

■なんと井手雅人が書いて直木賞候補になった小説『地の塩』の映画化。『土と兵隊』『五人の斥候兵』などで有名だった日活の戦争映画の復活で、再開日活としては戦後初の戦争映画になった記念作。しかも、伝説の名キャメラマンが監督に進出、脚本は黒澤組が書くという、意欲作。

■ソ満国境で国境監視に当たる中隊は現地人と溶け込んで平和に暮らしていたが、新任の隊長(辰巳柳太郎)は士官学校でのコチコチで、しかも関東軍の戦端を開くための陰謀に加担したことから、中隊の運命に暗雲が。。。

■現地人の子供を保護するために攻撃命令を無視した人格者の中尉(河村憲一郎)は軍法会議にかけられることになるが、軍法会議でありのままを証言されたら軍司令部を無視した関東軍の独断専行の謀略が明るみに出て困ることになる関係者は苦し紛れの悪巧みを編み出す、というなかなか硬派な戦争映画で、素材も異色だし、切り口も斬新なので、あまり似た戦争映画を知らない。さすがに簡潔な脚本だし、演技の見せ場もうまく作られていて、辰巳柳太郎の豪胆な個性も、実は案外ナイーブなところも書き込まれているし、謎の大陸浪人を演じる島田正吾の胡散臭さもさすがに良い。関東軍の謀略の密談を聞かれてしまい、首謀者たちが大尉に自裁を迫る場面など、芝居の見せ場としてよくできているし、演技的にも充実していて、見ごたえがある。

■ただ、最終的な関東軍の悪巧みに説得力があるのかは疑問で、実際になにかモデルになった事件があったのだろうか。いくらなんでも石山健二郎の結論が荒っぽすぎて、そんな無茶な命令絶対にどこかから漏洩するし、その場合の関東軍のダメージは余計に大きくなるだろうと思うので、どうも作為が過ぎると感じる。よくあるのは、中隊を激戦地の最前線に送って、事実上全滅させるという手法だけど。それに、大尉は生き残って、日本に帰国するみたいなんだけど、ドラマの幕引きとして、それでいいのかなあ。この事件について、今はどう考えているのかを描かないとダメじゃない?

■さすがにロケ撮影には力が入っていて、撮影の三村明のうでが冴えるけど、慰安婦とのやり取りのステージ撮影は照明設計が妙なことになっていて、不自然に暗く潰れていたり、どうも褒められたものではない。日本映画界でも屈指の名キャメラマンのはずだが、このあたりは、三村明のコントロールが効かなかったのだろうか。それゆえ、監督作はこれだけで終わったのだろうか。


参考

日活の製作再開当初は、新国劇と連携していた。実は良い映画が多い。
maricozy.hatenablog.jp
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