お早うございます。死にました…なにわ女の一生涯を描き切る!NHK朝ドラ『カーネーション』備忘録⑦25-26週

25週「奇跡」(演出:松川博敬)

■2001年、88歳の糸子。かかりつけの病院でファッションショーを開催することになると、モデルになる末期がんの母親(中村優子)に、あんたには奇跡を見せる資格があるんやと励ます。そして、その病院には奈津(江波杏子)が入院していた。

26週「あなたの愛は生きています」(演出:田中健二

■嫌がる奈津を老人ホームに入所させた糸子は二階を改装して、サロンを作る。2005年、糸子は講演先の病院でたまたま周防の娘(あめくみちこ)と出会い、2006年に病没する。2010年のだんじりの宴会で朝ドラの提案があり、2011年、朝ドラの放送が始まる。病院の待合室でテレビを眺める奈津の姿があった。

雑感

■総婦長役の山田スミ子が貫禄を見せる。夏木マリと対峙して全く引けを取らない。ただ、25週はさすがに全体においても最もベタな展開でしたね。なんと中村優子が登場。『燕は戻ってこない』のエキセントリックな春画作家リリコ役が強烈な、あの中村優子です。でもまだ若いから、健康的ですよ!それにしても、この段階で突如投げ込まれて、一座の中で演じきった度胸は大したものです。

渡辺あやの構想としては、朝ドラという連続ドラマの土俵を活かして、物心ついたときから息を引き取るまでの、本当の女の一生を描くというものだったろう。だから、糸子がちゃんと死ぬまでを描くのが挑戦だった。そのためには、尾野真千子で押し通すには無理があった。江川悦子の特殊メイクでも、90歳を超えた老女には化けられまい。しかも、撮影は毎日あるのだ。特殊メイクに何時間かかる?だから最終的に夏木マリにチェンジするのは現実的な選択だった。ただ、時制を大幅に飛び越えるので、ドラマとしてはどうしてもダイジェストになってしまう。夏木マリ編が、どうしてもペースダウンするのは仕方ない。そもそも、老いを丹念に描くというテーマもあり、どうしてもペースは変化するのだ。台詞の間合いも当然変化する。そのなかで、大きな偶然が起こり、残されていたエピソードに決着がつく。そのために、老境編は必要だったともいえる。周防の娘(あめくみちこ)と対面するし、岸和田に密かに帰ってきていた奈津と再開する。周防の具体的な消息については結局語られず、奈津の事情の詳細についても語られない。もう、みんな年をとりすぎたからだ。糸子は幼馴染の腐れ縁の奈津をなんとかしたいと願い、老人ホームに入所させるが、本当は奈津の最期は自分が看取るくらいの意識だったろう。でも、糸子のほうが先に逝ってしまった。だから、糸子は風とともに朝ドラとして帰ってくる。心配で仕方ない奈津の元に。それこそが、ドラマの力であるというメタドラマにもなっている。

■あわせて本作は、岸和田に生まれて、岸和田に死んだなにわ女の一生を通じて、血縁だけでなく地縁のつながりの不思議さと深さと、その意義を強調する。放映の開始された2011年に起こった東日本大震災の被災から立ち直るには、国や自治体の公的支援だけではなく、たまたまそこの生まれついて顔見知りの関係を通じて、良くも悪しくも、支え合って生き抜いていくしかないのだと、ということを伝える。そこには、島根の地に移住して日常生活をおくる渡辺あやの近所付き合いや介護や看病や、といった主婦としての生活実感が反映しているだろう。たまたま結ばれた血縁や地縁に根ざして、その偶然を宝もの(御縁)として、相互に心配し、支え合うあう関係、それが人間(庶民)の根本的な営みの姿であることを、みごとな説得力とリアリティで念入りに描く。一本気な女の強い生きる意思を描く。渡辺あやは、連続ドラマというフォーマットの可能性を拓いたと思う。

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