■落語で有名な『怪談鰍沢』は、なぜか映画化されていない。少なくとも、戦後はね。その理由は幽霊が出ないからだろう。お熊という女が毒殺を企てるだけでなく猟銃を掲げて追いかけてくるという即物的な恐怖を描くから、映画としては怪談ではなくスリラーになってしまう。例えばザ・ガードマンの『怪談殺人鬼ホテル』などはその系譜とも言えるし、なかなかの傑作だった。こちらは猟銃ではなく、出刃包丁の二刀流だ!凄いぞ。
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■本作はなぜか笠原和夫が脚本を書いていて、落語の物語を中心としていろんな要素を加味して、かなりオリジナル色の強い怪談になっている。まずは、ちゃんと幽霊が出ること。落語では出ませんけどね。最初に心中の死にぞこないのお熊(赤座美代子)は、夫が不能で、美形の男を誘い込んで殺してしまうのだが、それがピーター。まあ、無意味に美形なんですね。しかも、その死に様のグロテスクなこと。特殊メイクの醜さも圧巻ですね。でも、いわば、この人、お話の本筋には関係ないですね。
■一方、落語にも登場する新助のお話もちょっとひねり過ぎで、間男した女房(早瀬久美子)を殺したと思ったら実は生きていて、土の中から蘇って、夫のことが心配で道中を追ってくるという、謎の展開。最終的には復縁するよ。そんなわけないだろ!
■心中しそこなった追い剥ぎ夫婦と、その犠牲になりかける男の夫婦と、二組の夫婦を対置しているのは、さすがに笠原和夫の構築だが、そこに無理くりピーターを絡ませたから、わかったようでわからない話になった。ピーターは、なにがしたくて、新助の道中に取り憑いたのか?
■でも演出に淀みがなくて、いわば活劇的にサクサクと進むし、グロテスクな見せ場は衒いなくこれでもかと押すし、なかなか痛快ではある。やり切った感はある。そのかわり幻想味は乏しいけどね。
■しかもラストには、岡本綺堂の有名な「くろん坊」まで援用するから驚く。笠原和夫、岡本綺堂の怪奇短編も読んでるんだ。しかも「くろん坊」。まあ昔から有名らしいからね。ホントは、「くろん坊」をやりたかったんじゃないの?無理だけど。