基本情報
大氷原 ★★★
1962 スコープサイズ 95分 @アマプラ
企画:笹井英男 原作:戸川幸夫 脚本:秋元隆太 撮影:高村倉太郎 照明:大西美津男 美術:千葉一彦 音楽:小杉太一郎 監督:斎藤武市
感想
■樺太から流氷に乗ってやってきたギリヤークのハンター鉄次(宍戸錠)は、戦時中にギリヤークを裏切ってソ連に父母を売った日本人に復讐するため、網走のニフブン部落にやってきた。だが、ライバルのトッカリ(アザラシ!)ハンターの北村(小高雄二)はギリヤークの出自を隠して日本人に魂を売ってやがる。しかもその男には部落に可憐な許嫁の娘(和泉雅子)があった。羨ましすぎるぜ。。。
■戸川幸夫の原作による雄渾な北の果の西部劇。お話は完全に西部劇の焼き直しで、ふらりとやってきた異邦人の宍戸錠が復讐を遂げていづこともなく去ってゆく。その間にライバルとの鞘当や、薄幸の少女との淡い恋愛劇が織り込まれるという、いかにもありがちなお約束の定番活劇。
■でもこの映画がユニークなのは、主人公が日本人ではなく、少数民族ギリヤークであるところで、主な登場人物もギリヤークである。ギリヤークは南樺太の原住民で、戦前は日本の領地だったので、日本人だったが、先の敗戦でソ連に占領された。だから現在の主人公は不法出入国で訴追される。劇中ではみずから「ニフブン」(と聞こえる。「ニブフ」ともいうらしい。)と呼び、日本では網走の極貧の部落に暮らしている被差別の民である。つまり、堂々とマイノリティを主人公にした映画である。
■小高雄二がギリヤークの出自を隠して、日本人になりきろうと足掻く男を熱演して、例によって演技的に上手くはないが、変に崩れた味のあるいちばんの儲け役だ。許嫁は絶世の美少女、和泉雅子だ。でもニフブンなので避けている。そんな美少女に錠は一目惚れして、純情な片思いを寄せる。
■なんといっても現地ロケーションが一番の見所で、ハンターたちのトッカリ狩りも実写の迫力。愛らしいアザラシさんたちが次々と血まみれで息絶える残酷絵巻。でも室内シーンなどは日活のステージ撮影で、さすがに照明のルックがつながっていないのは興ざめで、せっかくリアリズムを求めるなら、ぜひともロケセットで撮るべきだった。勿体ない。
■でも、活劇としては、せいぜい殴りあいくらいで、アクションを見せる映画ではない。あくまでマイノリティのメロドラマで押し通したのが秀逸。というか、実質的にはクライマックスは難病メロドラマで、悪の黒幕の陰謀で流氷に置き去りにされた北村を探して、錠と和泉雅子が二人で氷原を延々と旅するロケシーンが見せ場。そこで和泉雅子は肺病で倒れるのだが、脚本がよくできているから結構切ない。極貧のなかで夢見るだけしか許されなかった恋愛を死に際に実感しながら息を引き取る場面は、さすがによく描けているので、素直に感動する。
■でも、マイノリティに対する日本人の差別感情については描いてなくて、ある意味でトッカリハンターたちの小世界では、出自がなんであろうと実力本位で、強いものが純粋に尊敬されるフラットな社会だからだろう。なので、北村の自分の出自に関する負い目の部分が、単なる被害妄想にしかみえないという欠陥がある。さらっと差別を受けて生い立った描写を描いておけば活劇としては万全だった。
■和泉雅子の演技は正直開発途中で、発声も平板だし、心理描写の機微には乏しいのだが、れっきとした美少女なので、それだけで映画は成り立つ。このあと、浦山桐郎の『非行少女』で演技的には一皮むけるのだね。
参考
ギリヤークといえば、伊福部昭ですね。
斎藤武市って、日活A面監督で職人監督ってイメージだったけど、なかなか一筋縄ではいかない人だね。結構ユニークな狙いを秘めているように感じる。秀作も多くて、『父と娘の歌』なんて、結構空前絶後の音楽映画って気がする。maricozy.hatenablog.jp
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和泉雅子って、ホントに美少女だったのだ。ビックリした。
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日活映画にはマイノリティを主人公として、差別にめげない逞しさを描き出す映画たちが存在した。もっと注目されるべき。
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