さすがに4Kリマスターは凄かった!三隅研次の『斬る』

基本情報

斬る ★★★☆
1962 スコープサイズ 71分 @NHK録画
企画:宮田豊 原作:柴田錬三郎 脚本:新藤兼人 撮影:本多省三 照明:加藤博也 美術:内藤昭 音楽:齋藤一郎 監督:三隅研次

感想

■因果な星の下に生まれた若侍が、自らの出自を知らされたのち、幕府大目付に士官して水戸藩に査察に訪れるが、水戸藩では反逆の謀略が渦巻き、次々と大目付暗殺を企む刺客の襲撃が。。。

■というお話なんだけど、何度観てもかなり入り組んだ特殊なお話だし、話術も特殊なので面食らう。その原因は原作小説に由来するはずだが、なかなか初見では納得できないお話。脚本は新藤兼人なので、基本的にはオーソドックスで分かりやすいお話を書く人で、こんな入り組んだ象徴主義的な脚本を書く人ではない。原作がそうだったからその通りに書いたということだと思う。また、監督の三隅研次が感覚主義的な人で、面白がってアイディアを打ち込んでくるから、異様な時代劇になった。

新藤兼人は以下のように述べていて、いつもの脚本とは異なる手法を用いたという認識のようだ。

「僕がやってみたいシナリオに『しとやかな獣』のような台詞劇と、ものをしゃべらない動きだけの劇というものがあるんですね。(中略)純粋に三段階を踏んで、冗長な台詞なはしにした。三隅君は、悪夢というか、幽玄のような世界を作っています。」
(出所:新藤兼人著『作劇術』p.204)

その意味では、新藤兼人大映京都撮影所で助監督として付き合いもあった三隅研次の嗜好を汲んで、三隅君ならこんなのできるでしょうと差し出した新境地への挑戦状だったのかしれない。

■それにしても、主人公の母親のエピソードが相当に異様なお話なのでそれだけで映画1本分の熱量があり、それを若い頃のポチャっとした藤村志保と精悍に痩せた頃の天知茂のコンビで描ききった三隅研次の演出の冴えはさすがに尋常でない。

■そもそも本作の技術スタッフは、美術の内藤昭こそ三隅研次の右腕で息の合ったコンビだが、撮影はむしろ森一生とコンビが多かった本多省三だし、音楽もおなじみの伊福部昭ではなく齋藤一郎で、撮影:牧浦地志、音楽:伊福部昭なら、正直もっと傑作になったと思う。特にラストのあたりの腑に落ちきらない感じは、伊福部昭が楽曲を書くだけで、納得感が大幅に増すはずだ。

NHKのBSで放映された4Kリマスター版だが、これまでのネガテレシネのデジタルリマスターとはタッチが大幅に違い、フィルムルックがちゃんと再現されている。昔のデジタルリマスターはビデオ映像みたいに妙にピカピカで不自然な色調だったりしたのだが、最近の4Kリマスターはオリジナルのポジプリントのタッチを重視しているようだ。フィルムの粒状性も残っているし、若干明るすぎる印象はあるが、大映京都特有のキーライトを重視した影の多い彫りの深いタッチが残っている。映画館のスクリーンでニュープリント上映を観る感じが味わえる。

■後に市川雷蔵の剣三部作と呼ばれることになる第一作だが、雷蔵特有の童貞くささがよく生きた映画で、剣三部作って結局童貞ならではの潔癖さに命をかける純な若者の話だった。本作も、大義のための母の死、妹の死、そして行きずりの若い女の献身的な死(一瞬の遭遇なのに、これに強烈な欲情を感じて、精神的に交情(?)してしまう)との予期せぬ出逢いに操を立ててしまったゆえに、女との交わりや幸福な家庭生活を夢見ることができなくなり、現世に居場所を見失った因果な青年に、この世で生き残る場所があるのだろうかと問うお話になっている。

■もちろん、ありはしないので、現世よりも来世で三人の女達の待つところに駆けつけいたいと潜在意識下で願っている、死にたがりな若者なのだ。そんな形而上学的な変な人間像をリアルに肉体化できるのは浮世離れした雷蔵くらいしかいないわけですね。

参考

三隅研次の映画は昔からいっぱい観てますよ。昔から巨匠、いやアイドル監督だったから。
それに、あの演出は結局誰も真似も継承もできなかったよね。
普通に地元京都で生い育った、地産地消の職人監督だったけど、孤高の映画監督でもあった。
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