わてらかて人間や!内灘闘争のロミオとジュリエット!『非行少女』

基本情報

非行少女 ★★★☆
1963 スコープサイズ 114分 @アマゾンプライムビデオ
企画:大塚和 原作:森山啓 脚本:石堂淑朗浦山桐郎 撮影:高村倉太郎 照明:熊谷秀夫 美術:中村公彦 音楽:黛敏郎 監督:浦山桐郎

感想

■『キューポラのある街』に続く浦山桐郎の第二作で、例によって和泉雅子をシゴキぬいて演技を超えた表情を引き出し、これまたモスクワ国際映画祭銀賞などの賞をとって若き名匠・浦山の名が高く喧伝された映画。和泉雅子が当時の日記に「ウラ公殺して、俺も死ぬ」と書きつけたほど、浦山は苛烈な演技指導で若い娘を追い込んだ。

■昭和24年から石川県内灘村の内灘砂丘の海岸線は米軍の試射場となった。朝鮮戦争で使う砲弾の試射のために必要とされたのだが、当然のように接収反対運動が起こって村は二分され対立することになった。その際に立場の相違から遺恨を残した2つの家族があった。兄が保守系の町会議員に立候補したことも意にそまぬ失業中の三郎(浜田光夫)が、自堕落な父を持ち、亡くなった母に対する思慕を引きずりながら、自らも自堕落な生活に陥る、まだ幼い中学生若枝(和泉雅子)と出会って、淡い恋心を育てながらも偶発的な火災事故を契機に引き離され、それぞれ想いを残しながら、別々の道を歩くことを決心するまでを、シビアに粘った演出で描く。

■企画は日活で数々のリアリズム路線の意欲作を製作した大塚和で、浦山桐郎も堂々とリアリズム演出の姿勢を貫く。撮影は名手の高村倉太郎だけど、この時期やっぱり脂の乗り切っていた姫田真左久のキャメラで観たかったというのが偽らざる本心だ。というか、リマスターがどうも不十分なようだな。『豚と軍艦』とか『にっぽん昆虫記』とか『人類学入門』くらい、もっとピカピカに磨きあげれば、モノクロ撮影のシャープさが蘇るのかもしれない。

■三郎が居候する家の鶏舎が若枝の不始末で一気に炎上する場面までが前半で、後半は更生施設に入れられた若枝が同じような境遇の娘たちと徐々に打ち解けてゆき、一種の連帯感の中で癒やされてゆくさまをじっくりと描く。何しろ、普通のプログラムピクチャが90分のお約束のところ、約2時間の映画に仕上がっているから、完全に文芸大作仕様なのだ。

■鶏舎の火災シーンはリアリズム演出の最たるのもので、実際に鶏が眠る鶏舎に火を放って一発撮り。おかげで火だるまの鶏が走り回って焼け死ぬ阿鼻叫喚をそのまま撮影している。実際は、もっと早く消火する計画だったが、消火用の水が凍ってしまって、消火作業が遅れたものらしいが、完全に事故映像である。熊井啓が『地の群れ』でネズミを焼き殺したのも、この映画の印象があるのかもしれない。これもまた日活リアリズム映画の系譜か。

■更生施設でのエピソードに感動的な場面が用意され、特にマラソン大会で若枝が村人達に差別されて仲間たちが「わてらかて人間や!」と反論するシーンは名シーンだし、若枝を金沢に連れて帰って娼婦にしようとする叔母(沢村貞子!)が、悪い環境に戻すことを反対する施設の教師に向かって「そんな権利がありますか!?」と反発するのに、「権利というより、義務ですよ、これは!」高原駿雄演じる教師がピシャっと反駁する場面も痛快な名シーン。

■そして、ラストの大阪に旅立つ若枝に一緒に戻るよう三郎が切々と訴える金沢駅の喫茶店の場面は、確かに粘りに粘った名シーン。二人の周りをキャメラが回転し、周囲のモブたちが二人の異様な雰囲気に反応しつつ、奇異の視線を投げかけながら行き過ぎる。二人は愛し合うゆえに、それぞれ別の道を往くことが必要だと話し合う。二人が元の街に戻っても、また不要な波風を起こすだけで二人に光は差さないだろう。そのことを若枝がひとりで考え抜いて先に悟り、年上の三郎は徐々に説得されて理解してゆく。若枝は確かに成長したのだ。一人の足であるき始めることがいま必要だと自身で決めたのだ。冒頭で若枝に学校の勉強を教えていた三郎が、こんどは若枝に教えられている。「ボクも一人になって、もっと自分を掘り下げていってみるわ」三郎はやっと若枝の決意が腑に落ちるのだ。愛するからこそ、互いにまず独り立ちからやり直すのだ。巡り合うタイミングが早すぎたことが悲劇だった二人は、もう一度出会い直すところからやり直すことに決めたのだ。

■だから本作は、浦山桐郎の映画というよりも、大塚和が若杉光夫らの民藝映画社のスタッフで製作した『大人と子供のあいの子だい』とか『サムライの子』といった半分教育映画的な青春映画、児童映画の系列に連なるものだと感じる。そして、ラストの三郎の少々唐突なセリフ「戦争が始まりそうになったら、飛んでいってやるからな!」が、朝鮮戦争を発端とするこの映画の締めくくりとなる。東西冷戦下の昭和38年、核戦争の見えざる危機と戦争の影を引きずりながら、それでも二人はそれぞれの新しい人生に旅立ち、将来出会い直すことに賭けるのだ。
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