監督は逮捕されても映画は心に届く!『泣き虫しょったんの奇跡』

基本情報

泣き虫しょったんの奇跡 ★★★
2018 127分 @DVD
原作:瀬川晶司 脚本:豊田利晃 撮影:笠松則通 照明:水野研一 美術:橋本創 音楽:照井利幸 VFXスーパーバイザー:道木伸隆 監督:豊田利晃

感想

■アマ名人からプロ棋士になった瀬川晶司の自伝の映画化。新進棋士奨励会に入った将棋好きの少年が26歳までに4段になってプロ棋士になろうとするが夢果たせず挫折、大学へ入り直して平凡なサラリーマンになるが、夢を諦めきれずアマ名人となるとプロ棋士を倒してゆく。。。というお話。

■こうした実話ベースのサクセスストーリーはハリウッドの得意ジャンルだけど、本作も実に的確にできている。脚本は監督が書いているが、それもそのはず、監督の豊田利晃は自分自身も奨励会出身だったのだ。だから完全に自分ごととして描いている。そういえば阪本順治の『王手』もこの人が脚本を書いていたのだ。そもそも監督の自主企画でホリプロが乗ったという経緯らしい。

ホリプロ製作だからなのか、低予算映画のはずが、配役が妙に豪華でオールスターキャスト。主演クラスの俳優が勢ぞろいという凄い布陣。松田龍平が主演で(おっかさんも製作に参加している)、妻夫木聡松たか子藤原竜也もほとんどワンシーンのみ登場。イッセー尾形が少年時代のメンター役で下町の将棋クラブのおやじ役で素直にいい味を出す。後半の奨励会ドロップアウト後のメンターが小林薫で、何をやっているおじさんなのか明確に描かないのだが、大人感は万全で説得力があるから、文句はない。上白石萌音石橋静河早乙女太一永山絢斗と出るわ出るわ、邦画メジャーでもなかなか見ないくらいのオールスター陣。

■たかがゲームである将棋になぜそこまで人生をかけることになるのか、その魔力(?)について、部外者には結局判然としないのだが、将棋の対局シーンになるとキャメラが踊り、ロック調の音楽が盛り上がるという派手な演出で、退屈はしないようにできている。でも全くの門外漢にも将棋をしたいなと思わせるところまでは描けていないのは、残念。そこはなんとか工夫して欲しいところ。

■商業映画としては万全な出来具合で、ホリプロも興行に大いに期待したところだが、東京テアトルの配給なのでメジャー系統ではなく、全国順次公開中の2019年に監督が銃刀法違反容疑で逮捕、新井浩文が性犯罪で逮捕というダブルパンチで、思い通りの興行成績にはならなかったようだ。

■2005年に覚醒剤所持で逮捕歴のある監督だが、拳銃所持については結局不起訴処分(自宅に保管した戦時中の骨董品が起訴されるという、いかにも曰く因縁がありそうな経緯。。。)だったようだし、実に不運な映画といえる。どこに出しても恥ずかしくない王道の娯楽映画なのに。もちろん、『ハケンアニメ!』ほどの魂を抉る衝撃はないですけどね!

■才能ある監督であることは確かだけど、これだけ警察にマークされると今後のメジャー活動は難しいだろうな。というか、友達が悪いのかなあ。。。

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