吉永小百合が芸能界の父母(@劇団民藝)に捧ぐ渾身の音楽映画!『父と娘の歌』

父と娘の歌

父と娘の歌

  • メディア: Prime Video

基本情報

父と娘の歌 ★★★☆
1965 スコープサイズ(モノクロ) 92分 @アマプラ
企画:坂上静翁 脚本:鍛冶昇、林馬呂 撮影:萩原憲治 照明:大西美津男 美術:坂口武玄 音楽:小杉太一郎 監督:斎藤武市

感想

■昭和40年度芸術祭参加作品で、森永健次郎の『ぼくどうして涙がでるの』と二本立てで公開された。そして両作とも萩原憲治が撮影を担当しているという謎の萩原憲治週間となった。

■一応お話はあるけど、ドラマとしては実に弱くて、交響楽団を病気で離れて今はドサ回りバンドのクラリネット吹きの親父と、貧乏暮らしのなかでガツガツ頑張ってお金をためてピアノで音楽大学に入ろうとする娘のドラマで、行き違いはあるものの、最終的に楽団に復帰した父とコンテストで優勝した娘がチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番で競演するまでを描く。確かにドラマとしては弱いけど、日本映画には珍しいクラシック音楽を聞かせる音楽映画としては大成功している。

■一番の見どころは前半の貧乏暮らしの中でアルバイトにも精を出しながらピアノにしがみつく吉永小百合の姿を活写するあたりで、吉永&浜田の息のあったコンビのハツラツとした姿が素朴に楽しいし、脇から絡む山内賢も巧妙。また、浜田光夫は得意のバイオリンの腕をそのまま披露するし、吉永小百合も各所で実際に弾いている姿をキャメラがドキュメンタルに捉える。日本映画には珍しく、実際に演者が楽器を演奏するという贅沢な趣向の映画なのだ。この頃、吉永も浜田も殺人的に忙しかったはずなので、一体いつ練習したのかと訝しい気にもなり、素直に感心することにもなる。しかもこの年、吉永は早稲田大学の第二文学部に進学しているのだ!

■萩原憲治のモノクロ撮影も絶好調で、『愛と死をみつめて』よりもロケ撮影の腕が生かされていて、非常に良いと思う。細密なモノクロ撮影の美しさ、ときに幾何学的なシャープな構図を用いるセンスの良さ。とにかくたくさん撮ってるキャメラマンだけど、代表作に違いない。

斎藤武市の演出の腕にも感心しきりで、特にクライマックスの練習風景からいきなりコンサート本番に飛ぶ大胆な省略には舌を巻いた。ハリウッド映画などではうまく使う手だが、日本映画でここまで使いこなした例は知らない。そして、ラストの切れ味の鋭さも圧巻。普通ならコンサートの成功後にひとくさりあって、のんびりとエンディングとなるところ、コンサートの終了がそのまま映画の終了となるのには度肝を抜かれた。この映画の描こうとするものはすべて描き終わったから、ここで「終」を出すべきなのだという明確な演出意図。斎藤武市を舐めていたと深く反省した。

■このお話のベースには吉永小百合とその実父との関係がイメージされていて、実際の吉永小百合は不甲斐ない実父から離れることで大人になっていった。その時、芸能界で父母と慕ったのが劇団民藝宇野重吉奈良岡朋子だったのだ。本作はその構図がそのまま劇中に敷衍されている。吉永小百合は自分を縛る実父母から逃げるように家を出て、宇野重吉奈良岡朋子の導きで、28歳のとき、1974年に今の結婚をすることができたのだ。その意味で、本作は吉永小百合のキャリア中でも決定的な意味合いを持つはずだが、なぜか忘れられた映画になっている。これほどできが良いのにだ!どうしても実父母との確執を思い出させるから吉永小百合自身も冷静に観られないのかもしれないな。
www.nikkatsu.com


参考

関川夏央のこの本は吉永小百合に対するひねくれた愛憎が読み心地を損ねているけど、ホントは大好きなんでしょ?あんた子ども?とも読める評伝になっていて、日活映画の歴史と思想を概観することができます。読み応えあり。というか必読。

昭和が明るかった頃 (文春文庫)

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