兄妹の青春を無残に踏み潰したのは誰だ!意外な小品傑作『青春を返せ』

基本情報

青春を返せ ★★★☆
1963 スコープサイズ(モノクロ) 90分 @アマプラ
企画:山本武 原作:赤城彗 脚本:井田探、小山崎公朗 撮影:柿田勇 照明:高島正博 美術:柳生一夫 音楽:山本丈晴 監督:井田探

感想

■ある夜起きた母子殺人事件の容疑者として兄(長門裕之)が連行され、無罪を主張するが遂に自白、第一審では死刑が宣告される。第二審でも却下され、最高裁で争うために、妹(芦川いづみ)は弁護士に任せておけないと自ら証人たちの証言の妥当性を当たり始める。そのとき兄の逮捕からすでに七年が経過していた。。。

■いままで全く知らなかったが、意外にもかなりの傑作。監督の井田探はいくつか良い作品を撮りながら、日活のロマンポルノ転向後はテレビ映画に移行し、東映で「プレイガール」を大量に撮った職人監督だが、本作は代表作の一本だろう、誰がどう観ても力作で秀作。今なら、テレビの2時間ドラマで、お手軽にロケ主体で撮影してしまうだろうが、この時代はまだセット撮影も重厚で、精細で重厚なロケ撮影も贅沢感がある。

■兄の犯行は主に自白を偏重したために、証人の証言は矛盾だらけであることを妹の芦川いづみが自分の足で証人に体当りすることで反証を固めてゆく。その途中で、就職に失敗したり、母親が自殺したりすることで挫けそうになるが、偶然出会った親切なおじさん(芦田伸介!)が元刑事で親身に相談に乗り、貴重な情報を提供したり励ましたりしながら、父親のように接する。このあたりの、偶然の出会いに救われたり、証言の矛盾にグイグイ食い込んでゆく前向きな芦川いづみの「妹の力」に、ついつい前のめりで見入ってしまう。ちゃんとサスペンスが効いているからだ。

■基本的にリアリズム路線で、日活には『事件記者』シリーズもあったことから、そのムードも踏襲している。モノクロ撮影も、コントラストは強めで、明るいところは白く飛び気味。通常の日活のモノクロ撮影はもっと中間階調よりだから、東宝大映のモノクロ撮影に近い感じだ。芦川いづみの顔も白っぽいのだ。撮影は柿田勇で、後年の「スペクトルマン」などの低予算特撮テレビ映画の撮影が印象的だが、実はなかなかのロケ撮影の名手だったのだ。

■重要な参考人として鼻の横にいぼのある行商のおばさんを尋ねる場面のあたりもロケが秀逸で、遂に訪ね着いた薔薇畑のシーンのカタルシスなど、いかにも映画ならではのもの。薔薇の場面だけパートカラーにしてあげたいくらいだ。

■最終的に裁判を逆転させるためのダメ押しとして自白を強要した元刑事のもとを尋ねる場面も秀逸で、元刑事を演じる大森義夫(@劇団民藝)の性格俳優ぶりが圧巻。『ガラスの中の少女』では浜田光夫の父親で、中風でよいよいの廃人寸前の汚いおやじを怪演して強烈な印象を残したが、本作は扱いも大きく、代表作といえるだろう。この桐生の場面のお話の展開などもストーリーテリングの上手さが冴える。

■だが、最終的に映画は無残な結末を迎える。詳しくは書けないが、「若者よ、体を鍛えておけ」で有名な「若者よ」がこれほど効果的に虚無的に使われた例を知らない。大島渚の『日本の夜と霧』では批判的に使われたが、こちらでは長門裕之が見事な寂しさで歌い上げて、知られざる名場面となっている。そもそもこの兄妹は冒頭のシーンからまるで恋人同士のように見えるし、明らかに近親相姦的な情感を含んで演出されているが、押しつけがましいところも過剰なところもなく、程よく品が良いのだ。

ちなみに「若者よ」の楽曲は、共産党幹部だった西沢隆二が「ぬやまひろし」名義で発表した詩に曲をつけたもので、歌声喫茶での定番曲としてその世代に刷り込まれた名曲。当時は「踊る共産党」とか「歌う共産党」と揶揄された。
そんな時代に、シンプルで迷いがなく、左翼にも右翼にも愛唱されるという奇跡的な歌となった。
左翼は暴力革命のその日を夢見て軍事的に鍛錬しておけと歌い、右翼はその時にアカに対抗できるように軍事教練に励めと歌う。
本作では、平凡な庶民の、青春の幸福が発露するときのために自らを鍛えておけ(労働に励め)と歌い合いながら、ついにそのときは訪れない。。。

芦川いづみの演技はいささか単調で、陰影に乏しいくベストアクトとは言えないのが残念だし、ラストの病室のシーンは演出的にもなかなか無理があるのだが、警察のずさんな捜査による冤罪事件により家庭が崩壊してゆくさまを痛々しく演じてみせる。兄妹の青春と人生の夢を無残に踏み潰したものはなにか、その憤りと悲しみで映画は終わっても、しばらく立ち上がれない。
www.nikkatsu.com

参考

冤罪ダメ、ゼッタイ!
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『青春を返せ』は『街に気球があがる時』と表裏遺体の関係にあります。両作ともアマプラで視聴可能です!是非!
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