真昼の暗黒 ★★★☆

真昼の暗黒
1956 スタンダードサイズ 126分
DVD
原作■正木ひろし 脚本■橋本忍
撮影■中尾駿一郎 照明■平田光治
美術■久保一雄 音楽■伊福部昭
監督■今井正

■日本映画史上では超有名作なのだが、何故か見る機会が無かった本作だが、やっと念願かなって観ることができた。冤罪事件として有名な八海事件の裁判中に、どう考えても冤罪じゃないか!と劇映画で訴えた、まさにアクチュアルな社会派映画の好見本。

■粗暴な土工が起こした強盗殺人事件を警察が複数犯の犯行と見立てたことから、土工のツレたちが逮捕され拷問によって自供を強制されるという恐怖の実話を元にしている。土工のツレたちは戦争から引き揚げ、戦後の混乱期に犯罪を犯して前科者となっており、日本の戦後の一断面を見せる仕掛けになっている。さらに、警察は前科者=犯罪予備軍と予断している様が描かれ、怖い、怖い。温情派のふりをしながら豹変する加藤嘉の怖いこと、怖いこと。警察による被疑者への拷問の様が生々しく描かれ、残酷描写こそ無いものの、土工たちを攻め立てる刑事たちの台詞の生々しさは他の邦画の比ではない。

弁護団が検察調書の内容では犯行はコメディ映画にしかなりようがないと実証するコミカルな場面で気持ちを緩めさせておいて、控訴棄却から「まだ最高裁がある!」の有名なラストまでの感情のゆさぶりは、橋本忍のさすがの芸の冴え。橋本忍はここでは、高尚なドラマツルギーの探求ではなく、敢えて通俗話芸の極を目指している。その先に「砂の器」が登場するのもむべなるかなである。

飯田蝶子が感極まりながらも一言も発することができずに逃げるように去った後、草薙幸次郎が名台詞を叫ぶところで断ち切るように映画は終わる。さらにその背後には伊福部昭の名旋律が静かに盛り上がっている。映画における最高の訴求力とはこのことだ。

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