文芸映画だけど、芦川いづみのアイドル映画じゃないか!『風船』

基本情報

風船 ★★★☆
1956 スタンダードサイズ 110分 @アマプラ
企画:山本武 原作:大佛次郎 脚本:川島雄三今村昌平 撮影:高村倉太郎 照明:大西美津男 美術:中村公彦 音楽:黛敏郎 特殊撮影:日活特殊技術部 監督:川島雄三

感想

■カメラメーカーの社長村上家では、未婚の長男(三橋達也)が戦争未亡人久美子(新珠三千代)を囲って素行が悪い。妹珠子(芦川いづみ)は小児麻痺の後遺症で障害があるけど、しっかりと自分の意志で外の世界に挑もうとしている。珠子は久美子を訪ねて親しんでゆくが、兄はクラブ歌手(北原三枝)にも気を引かれ、久美子は自殺を図るが。。。

■というお話だけど、かなり複雑なプロットになっていて、このお話はどこに着地するのか見当がつかないなあと思っていると、終盤綺麗に回収するからさすがにレベルが高い。お父さん(森雅之)のセカンドライフの話と、多すぎるお金が人間を腐らせた実例としての長男の素行不良と、障害がある娘の自立へ向けて一歩を踏み出すエピソードが綺麗に整理される。そこに、親戚の都筑(二本柳寛)という男の戦中戦後の屈折した人生と野心あるクラブ歌手との腐れ縁が絡んで、ホントに複雑なんだけど、最終的にスルッと腑に落ちる。

■この時代、会社の定年は50歳とか55歳のはずなので、森雅之は社長なのでまだ現役だけど、すでに平均余命を意識する年代で、リタイアには決して遅くないタイミング。そのなかで、昔馴染んだ京都で、画家としてのキャリアを再び深耕してみたいと願う。そこには昔なじみの娘がいて、左幸子が登場するというオールスター映画。この京都シーンはロケとステージ撮影と作画合成が多用される。封切りは2月で、盆踊りの夜のシーンで息が白いので、撮影の苦労が察せられる。あの盆踊りシーンはまるまる真冬に撮影したらしいぞ!

■都筑という胡散臭い謎の男を二本柳寛がうまく演じていて、戦中も戦後の時流に乗って上手に世渡りをしているようだけど、生き方に芯のない風船のような男。でも女にはもてて、北原三枝パトロン。でありながら、久美子のような女があったら俺の人生も変わっていただろうなんて述懐する。北原三枝も結構いろんな役を演じていて、この役は相当無理があるけど、頑張ってますよね。さすがに歌は吹き替えでしょうけど。

■で、最終的に芦川いづみがアイドル映画的にすべてをさらって持っていくから凄いんだけど、監督の川島雄三も明確にそう仕組んでいる。すでに遺伝的な要因による筋委縮の宿痾が発症していた時期、明らかにそれを意識した演出だろう。いま観ると、障害者純粋幻想のステロタイプに感じられるけど、なにしろ作劇がうまく仕組まれているので、ラストの盆踊りシーンは素直に感動しますよ。黛敏郎の音楽も妙に素直にハリウッドテイストのきれいな曲想。川島雄三の映画のなかでは、かなり素直なタイプの映画で、万人受けする作品ですよね。いや、芦川いづみが良すぎるので、名作かも。


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