慎太郎原作映画は傑作ぞろいの法則?ろくでなし大学生たちの罪と罰『完全な遊戯』

基本情報

完全な遊戯 ★★★★
1958 スコープサイズ(モノクロ) 93分 @アマプラ
企画:高木雅行 原作:石原慎太郎 脚本:白坂依志夫 撮影:横山実 照明:高島正博 美術:坂口武玄 音楽:真鍋理一郎河辺公一 監督:舛田利雄

感想

■退屈な大学生たちはボロい金儲けを夢想するうち、競輪場とノミ屋の事務所にタイムラグが生じることを利用して詐欺を働き、濡れ手に粟の一攫千金を思いつく。当日、目論見どおり計画は順調に進展するが。。。

■1958年は大映増村保造が『巨人と玩具』を撮って、その脚本も白坂依志夫が書いたのだが、同年日活のために書いたのが本作。監督は増村とは同年代で日活のエース、舛田利雄。日本映画史にはあまり名前は出て来ないが、その筋ではわりと有名な本作、かなり以前になんとなく観ていたが、改めて再見すると、これは間違いなく傑作でした。

■お話は単純だけど、競輪のノミ屋を騙して一攫千金という計画のサスペンスは当然うまく描かれるし、学生たちがノミ屋のヤクザを強請るという展開も皮肉だし、ヤクザの妹を人質にとったばかりに学生たちの品性の悪さが露呈して悲劇が加速するあたりのヒヤヒヤする嫌な展開、小林旭芦川いづみの残酷な再開場面の情感演出も、まったく破綻がなくて、メリハリの効いた見事な演出。特にメロドラマ的な部分がホントに上手くて、舛田利雄は活劇派と言われるが、メロドラマと活劇の両面に突出した才能を持った人で、そのメリハリの振れ幅の広さが特徴。さらにこの時代の作品は、そこに加えて思想性や思索的な要素がこってりと盛り込まれ、異様に充実している。

■学生たちのリーダーが梅野泰靖で、無軌道なグループのなかで知性派として知能犯罪を指揮するが、借金のかたにヤクザの妹を拉致したことから手下の学生たちが暴走すると、内心絶望している。一方で良心に目覚めて裏切った小林旭にも共感しながら、自分たちの犯罪行為に罪を感じて反省することはしない。インテリ学生として、自分たちのしたことの意味を冷めた目ですべて悟りながら、小林旭のように改心はしない。その屈折した心情をきちんと演じる名演。

芦川いづみはいつものように被虐のヒロインとして登場し、野蛮な男子学生たちによって散々な目に遭うのだが、「佳人薄命」で片付けられてしまう理不尽。もちろん小林旭はヤクザの兄妹(さらに母親)と関わり合うことで、自分の罪を自覚するようになるのだが、そもそもヤクザの妹を巻き込むことを軽薄に発案したのは自分自身なので、罪を自覚した途端にもう身の置き場がないのだ。

キャメラはベテランの横山実なので、キャメラワークはオーソドックスで安定感があり、照明もわりとフラット。間宮義雄とかが撮れば、もっとキャメラが動き回ったかもしれないが、1958年だからまだ早いか。1963年の『狼の王子』くらいのラフなキャメラワークでも良かった気はする。でも、日活のモノクロ映画ってなんでこんなにキレイなのかな。本作のアマプラの配信原版は、非常にきれいなリマスターを使用してます。

■後年の『われらの時代』に比べると白坂依志夫の脚本は地に足がついていて、自家薬籠中の物という感じで、淀みがない。構成もタイトだし、登場人粒たちに血が通っているし、テーマも明快。観念的な図式劇だった『われらの時代』が★★★☆だったから、本作は★★★★とせざるをえないなあ。そういえば、『巨人と玩具』も相当な図式劇だったけど、白坂依志夫って、意外と図式劇の大家なんだな。その資質を生かして後年もっと大作を書けばよかったのにね。それこそ『戦争と人間』とか、大きな構図で明確な図式劇として再構成すればよかったよね。

参考

石原慎太郎原作の映画化は傑作揃いですね。なんで?
maricozy.hatenablog.jp
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ずっと時代を下って、こんな映画もありましたが、これは例外ということで。
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日活にはなぜか競輪映画の系譜があった。しかも傑作揃い。なんで?
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