そこは赤ん坊が”飛ぶ”絶海の島!『孤島の太陽』

基本情報

孤島の太陽 ★★★
1968 スコープサイズ 106分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:伊藤桂一 脚本:千葉茂樹 撮影:萩原憲治 照明:宮崎清 美術:川原資三 音楽:眞鍋理一郎 監督:吉田憲二

感想

■日本には保健婦映画という歴史があってね、といっても2~3本しか思いつかないが、古くは『小島の春』、戦後でも『明日は咲こう花咲こう』という映画があった。離れ小島や山間の僻村の医療体制が整っておらず、医師も常駐していない地区の保健衛生を献身的に支えた職業女性が実際少なくなく、その興味深い献身的な実話が何度も映画化された。豊田四郎の『小島の春』は公開当時は名作と評価されたが、戦後はハンセン病に対する人権無視の隔離政策が批判に晒され、事実上封印に近い扱いになっているのは残念なことだ。純粋にいい映画なんだけど。

■本作は、戦後高知県沖の沖の島に赴任した保健婦の半生を実録映画として現地ロケで描いた意欲作。「明治百年記念芸術祭参加作品」という金看板を背負って、舛田利雄の『あゝ、ひめゆりの塔』と同時公開された。大塚和の企画だが、民芸映画社ではなく日活撮影所本体の制作。でもかなりの低予算映画で、全編現地ロケ。乳幼児の死亡率が高く、当時は原因不明だったフィラリアが風土病として蔓延する過酷な島。乳幼児が死ぬことを「飛ぶ」と言い習わして、ありふれた日常生活の一コマに溶け込んでしまった世界。戦後直後のそんな時代。

■現地に無免許の医師がいて、やる気もないけど、好人物といった風情。これが宇野重吉で、実際ハマり役で好演。それが肝心なところで島を逃げ出すくだりは、きっとTV版「日本沈没」の「いま、島が沈む」でも踏襲されているよね。長坂秀佳がこの映画観ているとは思えないけど。

■もっとフィクション寄りかと思いきや、完全に実録路線の年代記映画で、昭和24年から現在(公開当時)までが描かれるので驚いた。眞鍋理一郎の音楽もまるで木下忠司みたいなので調子が狂うけど、こんなスコアも書けるのかと感心した。まるで木下惠介の映画かと思うほど。

■実は芦川いづみの引退作で、保健婦協会の先輩をきれいに演じるけど、引退作ならもう少し豪華な映画に出してあげてほしかったなあとも感じるが、当時の日活にはその余力もなかったのだ。さすがにオールロケの貧乏映画ではちょっと寂しい。しかも、主人公のモデルとなった実際の荒木初子保健婦はこの映画の試写会の直後に脳梗塞で倒れているし、なんだかうら寂しいことなのだ。

吉田憲二の演出は真面目なものだが、島民の人情味とロケ撮影のスペクタクルを織り交ぜて、娯楽映画としては上出来。島民を動員したモブシーンなど、さすがにオールロケとはいえ撮影所映画の貫禄を示す。民芸映画社の制作だとこうはいかない。でも、若杉光夫の地味なモノクロ映画として観たかった気もする。もっとリアル路線になっただろう。

参考

吉田憲二は真面目で地味だけどいい監督だったらしい。再評価が必要だと思う。
maricozy.hatenablog.jp
これはフィクション方向に振った、でもなかなかの秀作。保健婦+歌謡曲のコテコテ娯楽映画で、確実に元気が出ます。良い映画です。
maricozy.hatenablog.jp
こちらも赤ん坊が飛びますが、意味が違います。
maricozy.hatenablog.jp
戦後時期、瀬戸内海から太平洋にかけての小島(孤島)では、過酷な生活を余儀なくされていたという。もちろん生まれる遥か前のお話。
maricozy.hatenablog.jp

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