霧の旗
1965 スコープサイズ 111分
DVD
原作■松本清張 脚本■橋本 忍
撮影■高羽哲夫 照明■戸井田康国
美術■梅田千代夫 音楽■林 光
監督■山田洋次
山口百恵主演でもリメイクされ、テレビでも何度かドラマ化されているはずの松本清張原作のサスペンス劇を山田洋次が映画化したもの。無実の兄の弁護を拒絶した高名な弁護士に対して妹が執拗な復讐を計画する。
橋本忍の脚本はおおむね原作に忠実で、特に橋本忍ならではの派手な工夫があるわけではないが、山口百恵版では甘く締めくくられたラストの処理を鮮烈なイメージで締めくくり、復讐劇をひとつの青春の完結形へと転化させることに成功している。山口百恵版を見た後に、こちらを見れば、そのハードボイルドな演出に圧倒されるだろう。山田洋次と倍賞千恵子のダークサイドがモノクロのノワールな情景描写のなかに結晶しており、思いがけない傑作である。
山口百恵版では三國連太郎が演じた弁護士を滝沢修が演じて、これまた完璧とえいる演技を示す。えてして新劇の大御所にとって映画はアルバイト感覚であり、大御所ほど手抜きが顕著なのだが、本作の滝沢修の演技は、新劇活動の真価というものを誰の目にも明らかな形で示している。ただ単に貫禄とか存在感だけでなく、繊細な心理描写にも的確な演技造形を見せ、文句のつけようがない。この大御所の演技をコントロールした山田洋次の演出家としての懐の深さも賞賛したい。
増村保造的ヒロインにも匹敵するユニークな女性像を確立してしまった山田洋次の才能は特筆に価するだろう。本作と「学校Ⅳ」の2本をフィルモグラフィーに持ち、今なお現役で新作撮影中という山田洋次という存在は、寅さんの山田洋次という枠組みには収まりきらない激しさを秘めているに違いない。それは青春映画へのこだわりのなかに顕著であると思われる。
なお、林光のテーマ音楽も傑作で、ラストの突き抜けた感動をよく支えている。「秋津温泉」、「女体」、そして本作と、女性映画の音楽を書かせれば日本一の作曲家なのである。