ワールド・ウォーZ ★★★☆

WORLD WAR Z
2013 スコープサイズ 116分
Tジョイ京都(SC4)

■謎のウィルスが感染爆発を起こし、人類の大半がゾンビと化したとき、元国連職員の主人公は国連事務局長のつてで家族を空母に避難させるが、感染源を探求する調査に加わることを強要される。韓国の米軍基地で目にしたのは...

■ブラピがディカプリオと競って約1億円で映画化権を手に入れ、自身のプロダクションで製作した超大作ゾンビ映画ゾンビ映画だが、グロシーンは巧みにオミットして、というか編集でごまかしてレーティングを回避している。ブラピ自身はR指定でかまわないと考えていたらしいが、パラマウントが当然PG−13を主張し、それにそって編集されている。

■しかもこの映画、撮入する際に第3幕の脚本が完成しておらず、それでも一応ロシアでの対ゾンビ大戦争を撮影したものの、これではレイティングもクリアできないし、何か物足りないし、ということで撮影分は破棄され、取り直しされたものらしい。確かに第3幕が急にスケールダウンするのだが、それでも対ゾンビの戦いに新機軸が発案されているし、CG盛りだくさんの大戦闘シーンは近年のハリウッド映画で見飽きたので、完成版は決して悪くないと思うぞ。

■製作費ももともとは150億円程度を想定していたのに、マルタ島エルサレムに見立てたロケの時点から既に謎の予算オーバーが発生、ブラピの製作会社に超大作の制作経験が無かったのが災いし、VFX担当も交代するし、全体の2/3くらいは撮ったはずの撮影監督ロバート・リチャードソンがクレジットから消え、リテイクを担当したベン・セレシンだけが残ったり、まあ困難続きのプロジェクトだったらしい。実際のところ、その割にはよく出来た娯楽映画である。製作費は最終的に210から250億円に膨張したらしいが、結果オーライで、大ヒットのおかげで回収はできるらしい。ほんとに映画って、どんぶり勘定の商売だなあ。

■第1幕のブラピ一家がいきなりゾンビ禍の大パニックに巻き込まれて、辛くも国連差し向けのヘリで脱出するまでの演出は、サスペンス無しでいきなりパニックシーンに突入するし、さらにキャメラを激しく振り回すし、細切れの編集のせいで、単純に見づらい映像の連続で、あまり良い出来とは言えない。もともと監督のマーク・フォースターという人はこうしたジャンルに適性が無いようなのだ。しかし、原作由来のアイディアの斬新さと脚本がそれなりによくできていて退屈はしない。イスラエルの大スペクタクルシーンは俯瞰的な視点から、ゾンビの群集の大規模なアクションをこってりとと描写し、このあたりは文句無しに凄い見せ場だし、サスペンスも盛り上がる。現実に存在するイスラエルパレスチナを隔てる壁をさらに巨大にスペクタクルに仕立てたものだが、ゾンビの侵攻を辛うじて押し止めているのが北朝鮮イスラエルというのが皮肉な描写だし、結局はその巨大壁も時間稼ぎにしかならないというのも、壁を設けることは弥縫策にしか過ぎないと批判しているわけだ。海外では「親イスラエル」映画だとの批判もあるようだが、そうは思わないなあ。

■ブラピ演じる主人公が国連職員として世界中の紛争や戦争、大量殺戮等の現場を渡り歩いた男という設定で、そのおかげでゾンビが蔓延して世界が終末に近づいても、無敵の戦いぶりをみせる。この世の地獄を歩き続けた男にとって、ゾンビは所詮死んだ人間。生きた人間の方がもっと危険で怖いことを熟知した主人公はゾンビには動じないのだ。その強さは、ランボーのようでもあり、セガールのようでもある。ランボー対ゾンビという構図が海外の記事で揶揄されているのもむべなるかな。でも、それがこの映画の面白みの核心だと思うよ。そして、その核心部分は第3部のロシア篇で大々的に拡張される予定だったのだが、多分やりすぎになってしまうので、避けたのは賢明だったと思う。ミクロから始まり、中盤のマクロの視点を最終的にミクロに回収して見せる完成版の芸当のほうが上手だと信ずる。


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