それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ ★★★★

それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィ
2006 ヴィスタサイズ 50分
DVD
原作■やなせたかし 脚本■金春智子
音楽■いずみたく近藤浩章 キャラクターデザイン・作画監督■前田実
監督■矢野博之

アンパンマンが海で拾ったみすぼらしい人形は命の星の流れ星を体内に取り込んで命を得るが、せっかく命を得たのだからと、好きなこと楽しいことだけをして生きようと決め、周囲に迷惑をかけ続け、孤立してゆく。同じように命の星から生命を得て誕生したアンパンマンに、私は何のために生まれたのかと問うが…

■かねてから傑作と聞いていたアンパンマンの劇場版映画の第18作目で、正直なところ図式的なお話で、テーマを直接的に台詞で言いすぎだし、それほどでもないなあと舐めていたのだが、クライマックスで一気に感動の坩堝に叩き込まれて驚愕した。何のために生まれて、何をして生きるのか、答えられないなんて、そんなのは嫌だ。というストレートすぎるアンパンマーチの歌詞をドーリィに託してストレートに劇化した作品だが、演出、作画、音楽の高濃度な結びつきにとことんやられる。正直に言って、黒澤明の『生きる』に匹敵する映画である。アンパンマン志村喬なのだ。 

■具体的に言えばクライマックスでかかるアンパンマンマーチのカンタータバージョンの破壊力である。予期しなかったアンパンマン最大の危機に、どんな奇跡が起こるのか、ドーリィはアンパンマンから何を学び取るのか、そしてアンパンマンの大反撃が豪快に、悲壮に描かれる。ご詠歌のようにもロシア民謡のようにも聞こえるカンタータアンパンマンマーチの地を這うような男性コーラスがシリーズ最高の見せ場を支配する。『パシフィック・リム』どころではない魂を振るわせる感動をアンパンマンで味わうとは、やなせたかし恐るべしである。まだ物心もつかない2、3歳の幼児に、何のために生まれて、何をして生きるのか、と人生究極の哲学的課題を突きつけるその真剣味はアナーキーですらある。

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