二郎さん、ちょっと力みすぎ!黒シリーズ第10作『黒の超特急』

基本情報

黒の超特急 ★★★
1964 スコープサイズ 93分 @BS12
企画:藤井浩明 原作:梶山季之 脚本:白坂依志夫、増村保造 撮影:小林節雄 照明:渡辺長治 美術:下河原友雄 音楽:山内正 監督:増村保造

感想

■岡山の不動産屋の桔梗(田宮二郎)は東京から来た開発業者中江(加東大介)に協力して自動車工場計画を見込んで地上げを手伝ったが、実はそこは新幹線延長計画地で、中江は公団と国会議員を強請ってもっと巨額な儲けを目論んでいた。それを知った桔梗は、汚職情報の結節点である公団理事(船越英二)の愛人(藤由紀子)を抱き込んで、脅迫にかかるが。。。

■黒シリーズ最終作で、なにより特徴的なのは、キャメラマンのアイディアで全カットを望遠レンズで撮ったこと。以前に観たときに、構図が変なところで切れていて、特に前半は登場人物の頭が不自然に切れているカットが多くて違和感を抱いたが、その原因は、レンズワークにあったのだ。普通に綺麗に撮れば『黒の報告書』みたいに、密着構図でグラフィカルなレイアウトになるけど、本作は敢えて綺麗に撮らないという戦略なのだ。その効果として、とにかく密室感が出ている。人間の距離が近い。人間の配置も後期増村メソッドの直角配置で、そもそも人間(の顔)が近いのだし、そのうえ望遠レンズで圧縮するから、ほとんど酸欠しそうな密室空間になる。まあ、それが狙いだけど。もう少し、メリハリが欲しいと感じる。

■しかも、田宮二郎の演技がさすがに力み過ぎで、テンションがおかしい。『黒の試走車』なんてまだリアルな人間像だけど、ここではかなり誇張された後期増村的な異常なテンションになっている。『夫が見た』の田宮二郎だって、まだ普通の人間だのに。そもそも、田舎の名家の出なのに金に執着して、却って失敗を重ねるボンボンで、運命の女と共謀しようと景気よく話し合ったあとに、それにはまず50万円貸してくれ。。。と言い出すだらしないコミカルな人間像だと思うのだけど、やたらと熱血漢(?)になっている。これは計算違いか、何か変な要素が絡んでいる気がする。

■運命の女を藤由紀子が演じて、これはなかなかの造形で、よく頑張っている。なにしろ最後には無惨に殺されて岸壁に筵を被されて転がる役なので、主演クラスの女優はやらないからね。終盤は短い髪型と、白い顔と、キツイ目元と目線の表情、つまり「見た目」での心理描写となっていて、そこは明らかに凝っており、見ごたえがある。額にかかった髪の間に、不自然な方向をきつく睨んだ目元が配置される。このあたりの演技プラスの見栄えの演出はかなり立派なもの。最後の死体の演技まで、徹底している。

■原作小説じたい、かなりの力作だったらしく、お話の構築は堅牢なので、まあ間違いなく面白いけど、田宮二郎の暑苦しい熱演はちょっと浮いているなあ。もっと軽妙に立ち回ったほうが、最後の悲劇が際立つと思うがなあ。もともとのシナリオにはそのニュアンスがあったのではないだろうか。もう少し、チンピラらしい滑稽さが盛られていたのではないか?もともと軽妙な若者の役もこなす器用な人なので、そこが惜しい気がする。

■本作でも青春の尻尾を引きずっている若者が、狡猾な中年に牙を折られて敗退する、「青春の終わり」が描かれていて、増村の「黒」シリーズにおけるテーマはしっかり通底しているけど、『黒の試走車』での田宮二郎✕高松英郎、『黒の報告書』での宇津井健✕小沢栄太郎の激突のアンサンブルに比べると、本作は田宮二郎の演技設計に難があった。対する加東大介は脂ぎった熱演で、しっかり『陸軍中野学校』に繋がるのだけど。


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