仇討 ★★★★

仇討
1964 スコープサイズ 103分
NHKBS2
脚本■橋本忍
撮影■中尾駿一郎 照明■和多田弘
美術■鈴木孝俊 音楽■黛敏郎
監督■今井正

■かなり昔にビデオで観たはずなのだが、その時の印象はパッとせず、残酷時代劇の便乗映画という程度の記憶だったのだが、今回のBS2の放送を観て、評価が一気に変わった。これは、なかなかの傑作ですよ。橋本忍脚本の醍醐味爆発ですよ。
■今回のBS2で凄いのは、台詞に頻出する”キチガイ”をカットしなかったことと、放送原版が非常に高画質なこと。”キチガイ”と言いまくるためにこの映画はほとんど忘れ去られるところだったのだが、改めて観ると、言葉狩りで封じられるにはあまりに勿体ない本格的時代劇である。しかも、高画質のおかげでモノクロ撮影時代劇の美しさを遺憾なく発揮している。解像度も高いし、陰影も豊かで、冒頭の朝もやのなかの馬場の情景から一気に物語世界に引き込まれる。
■おまけに、三島雅夫加藤嘉、信欣三、丹波哲郎といった名優たちが、橋本忍脚本の台詞を見事に生きてみせる。主演の錦之助は少々力みすぎで、面白くないし、その兄役の田村高広も、まだ演技の柔軟さを身に着ける前なので、兄弟そろって異様にカチカチなのが映画的には欠点なのだが、脇役たちが揃って好演するので、もう時代劇としてはお釣りがくるくらいの充実ぶり。
橋本忍の狙いは、武士道とか封建制の非人間性というよりも、ここでも官僚制の戯画と批判を描いて見せるところにあり、そのもくろみはかなり成功している。大体、仇討を衆人環視の見世物のように仕立てた経緯すら、当人たちもよくわからぬままにそうなってしまったという描き方で、誰が悪いというわけではない、硬直した組織の理不尽さ無責任体制がもたらした犠牲の残酷さを告発する形となっている。このあたりの視点の置き方と、時制を行き来する作劇の妙は、橋本忍の専売特許だ。
■仇討の終わった夜、現場の撤去作業に一息ついた足軽差配の信欣三が悪酔いして田中春男に絡む台詞には唸った。封建制社会の理不尽さでもありながら、現代の官僚化した組織や社会にも共通する病理を批判するところにこの映画の眼目があり、脇役の信欣三がその意図を完全に体現している。このラストには色々な意味で、涙を禁じ得ない。