反逆児 ★★★★☆

反逆児
1961 スコープサイズ 110分
NHKBS2
原作■大仏次郎 脚本■伊藤大輔
撮影■坪井誠 照明■和多田弘
美術■桂長四郎 音楽■伊福部昭
監督■伊藤大輔

■日本史好きの方には有名な事件らしい”築山殿事件”を、三郎信康を主役として描いた、戦後時代劇のベスト3に入る日本映画の傑作だが、久しぶりに見直しても、改めて陶然とする。今井正の「仇討」も傑作と思ったが、こちらは映画全体の風格が違う。端的に言えば、錦之助の演技はこちらの方が百倍素晴らしい。

■戦国時代を舞台にした家庭劇で、錦之助岩崎加根子杉村春子の三角関係が中心に描かれるのだが、基本的におなごの思慮の浅はかさが事態を悪化させてゆく。特に錦之助岩崎加根子の夫婦が些細なことですれ違い、その都度岩崎加根子は後悔するのだが、既に取り返しのつかないことになっているという、恐ろしいエピソードの積み重ねが心底心を凍らせる。まさに真綿で首を絞めるように、錦之助の生きる道は絶たれてゆくのだ。

織田信長から圧力をかけられると、徳川の家を守るために妻と息子に詰め腹を切らせる非情な家康を佐野周二が好演して、「いずれにせよこの返答は、若い者の血で書かねばなるまい」と名セリフを吐くことになるのだが、そういう意味では、老害の悲劇を描いた映画ともいえるだろう。「仇討」もそうだが、今日観てもテーマ的には全く古びていないのだ。

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