加賀騒動 ★★★☆

加賀騒動
1953 スタンダードサイズ 95分 @NHKBS2
原作■村上元三 脚本■橋本忍
撮影■三木滋人 照明■山根秀一
美術■角井平吉 音楽■高橋半
監督■佐伯清

■久しぶりに再見。村上元三の原作小説も読み始めると止まらない面白さなんだけど、橋本忍としては大幅に構成を変更している。中盤の約10年間を大胆に割愛している。加えて、字幕を多用して説明を加え、長編小説を力技で捌いている。

■何故かクレジットでは山田五十鈴がトップなんだけど、登場場面も少ないし、台詞も少ない。それでもラストで鮮烈な恋心の発露を見せて、場をさらうのだが、原作では浅尾という娘は設定が相当異なり、扱いも大きい儲け役なので、映画化するならこの役は是非自分が演じたいと立候補したのではないか。

■何度観ても三島雅夫の殿様演技は絶品で、「大槻、大きくなったなあ」と例の三島雅夫お得意の台詞回しで大友柳太朗に声をかける場面なんか、ほんとに名シーン。恋するお貞に主君の手がついて恋心を思い切るしかない大槻伝蔵の心理描写の場面は原作小説にはない橋本忍の工夫で、生まれかわって出世の鬼になることを決めた彼の心を、早朝に雨戸を開くにつれて大槻に差す朝日の光と影で描く辺りも名場面。

■主君の没後に逆賊の罪をかぶせて大槻を葬り去ろうとする重役方の評定会議の場面は橋本忍の理詰めの台詞劇が圧巻。ただ、全般に佐伯清の演出にルーズなところがあり、意味なく寄ったり引いたりするキャメラワークは何も考えずに撮っている様子だし、紋切り型に視線を外す演技を無理強いするところがあり、心ぐらいところのある加藤嘉もやたらと視線を外す動作をするのだが、演技派の俳優につける演技ではない。実際のところ、もっと力量のある演出家が撮れば間違いなく傑作になる脚本だ。伊藤大輔なんか大喜びで撮りそうな話だしなあ。

追記

■原作小説読了。いやあ面白かったなあ。小説では大槻伝蔵はけっこう最後まで心が揺れている。立身出世の鬼になり切れない自省的な弱さを丹念に描く。14年越しの恋を綿々とお貞に訴えるのも大槻の方なんだ。これを橋本忍は逆転し、お貞が綿々とくどくが大槻は内心の恋心を封印しきって、心の中で男泣きに泣くという腹芸を見せる見せ場に転換している。橋本忍の古典演劇に対する造詣を感じさせる改変で、映画のほうが凝った趣向といえる。

■浅尾については原作中盤で大槻に対する片恋の真情と、ことばに出さずに通じあう同志的な愛情を描きながら、終盤ではあまり劇的に生かされていない。そこに着目した橋本忍が、浅尾の一途な片恋を大きな見せ場に昇華させたのだ。大槻に対するなんというか条理を超えた共感のようなものが彼女を狂乱させる。映画では十分に描かれていない部分でもあるのだが、明らかに原作小説より大きな役になっている。

■原作小説は一応史実を重視して、大槻の人物像を再解釈しているが、橋本忍の脚本は、90分という上映時間に収めるためさらに大胆な再変換を行い、正統派のチャンバラ映画として、理不尽に対する義憤を爆発させる。のちに、橋本忍は5回連続のテレビドラマ用に脚本を書き直しており、こちらはたぶんもっと原作小説寄りだろうと思われる。絶対おもしろいはずなので、どこかで読みたいものだ。主演は仲代達矢だったらしい。


参考

※原作本です。読みだすと止まらない傑作なので、自信をもってお奨めします。村上元三は初めて読みましたよ。

maricozy.hatenablog.jp

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