白扇 みだれ黒髪 ★★★☆

基本情報

白扇 みだれ黒髪
1956/ST
(2004/9/8 BS2録画)
原作/邦枝完二 脚本/橋本忍
撮影/坪井誠 照明/山根秀一
美術/吉村晟 音楽/深井史郎
監督/河野寿一

感想

 歌舞伎作家の鶴屋南北は、中村座から親切ごかしに金子(きんす)を強請とる旗本田宮伊右衛門(東千代之助)の崩れた生き様に興味を持つ。強請、辻斬りと悪の所業に身を持ち崩した悪党伊右衛門は、松平家に奉公する、妻以和(長谷川裕見子)の妹以志(田代百合子)と密通しており、密会するために金が必要だったのだ。だが、以志に執着する安川(伊藤久哉)から決闘を迫られ、死を覚悟して臨むが、以志の助勢を受けて生き延びてしまう。二人は南北に不思議な因縁を明かして、江戸を離れようとするが、ことの次第を知った以和は・・・

 全盛期の橋本忍の趣味が良くわかる時代劇の佳作。南北が伊右衛門と出遭って、四谷怪談の構想を得るまでを、たった86分で描きだす、ハイテンポな小品である。

 特に前半は複雑なプロットが錯綜しているのだが、河野寿一の演出はあくまでアップテンポで押し切り、ほとんど全カットでカメラが動いている。もう少しメリハリが欲しい所で、映像的にも東映京都らしく質感に乏しく、陰影も浅い。

 ただ、東千代之助の伊右衛門が意外なほどのはまり役で、ちょっと地味で線の細い腺病質の持ち味が、悪に身を染めた旗本くずれの破滅的な生き方を無理なく描出している。前半はほとんど影の薄い以和役の長谷川裕見子も、ラストの不可思議な入水シーンで一気に魔の領域へ越境する女の情念の激しさを熱演して場をさらってしまう。さすがは橋本忍らしく、見せ場にそつが無い。

 同様の趣向の映画は、内田吐夢の「浪花の恋の物語」という秀作もあるが、むしろこちらのほうが完成度は高いのではないだろうか。変格四谷怪談として実に興味深い知られざる秀作である。

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