1967/CS
(2002/7/9 BS2録画)
原作/滝口康彦 脚本/橋本 忍
撮影/山田一夫 照明/小西康夫
美術/村木与四郎 音楽/武満 徹
監督/小林正樹
主君の命令でいやいやながら評判の悪い側妾(司葉子)を長男(加藤剛)の嫁として迎えたものの、二人の間は仲むつまじく安堵しつつあった矢先、第一位の世継ぎが病死したことから、一転して第二位の世継ぎの生母である嫁を返上するように命じられたとき、隠居の身の上であった主人公(三船敏郎)は藩に対して反旗を翻し、長男ともどもたった二人の反乱を企てて、屋敷に籠城するのだった。
「切腹」といい、この後の「いのち・ぼうにふろう」といい、小林正樹の時代劇の面白さを再認識する必要があるのではないか。もっとも「怪談」はあまり買っていないのだが。
この作品は以前に京都文化博物館で一度観ているのだが、ラストの立ち回りの演出が下手なのと、息子夫婦の愛し合うむつまじい様を脚本も演出も造形できていないため、徒に台詞で説明しないと物語が展開しないあたりの苦しさ、また、加藤剛が三船敏郎の息子という設定に馴染みにくいといった欠点をいくつも抱えながらも、橋本忍おじさんのほら話はさすがに面白い。
後に三船プロのTV時代劇も支えた山田一夫のモノクロ撮影は大映などとは全く異なった照明設計で、メリハリには乏しいが、大きなステージのメリットを生かして外景と室内を見事なバランスで精緻に捉えたカットなどに充実した働きを見せ、小林正樹ならではの様式的な構図をよく支えている。また、村木与四郎のいつもながらのスケールの大きなセットは黒澤組のようなくどいほどコテコテの造り込みがなく、むしろこざっぱりした自然な佇まいが好ましい。もちろん、美術様式にも小林正樹らしい様式性が多分に反映されているはずだが。
キャストとしては、司葉子がただただ陰気な奥方という印象で、成瀬巳喜男の「乱れ雲」の色気は何だったのか?というくらい味気ないのは演出にミスがあったためか?他にはなんといっても、神山繁の側用人の不気味さが出色で、濃い隈取りした表情が陰惨で実に分かり易い演出となっている。三船敏郎に対峙するには役者として貫禄不足なのだが、吸血鬼のようなメイクと照明効果でなんとしのいでいる。神山繁は「いのち・ぼうにふろう」でも同様の敵役を演じており、小林正樹ならではのキャスティングだな。
それにしても、小林正樹にはもっと時代劇を撮っておいてほしかったものだと思う。