武士道残酷物語 ★★★

武士道残酷物語
1963 スコープサイズ 122分
DVD
原作■南条範夫 脚本■鈴木尚之依田義賢
撮影■坪井誠 照明■和多田弘
美術■川島泰三 音楽■黛敏郎
監督■今井正

■江戸時代から現代に至る7世代にわたる被虐の血に彩られた忠義の歴史を今井正文芸時代劇風の重厚なタッチで描いた異色時代劇。世を挙げての残酷ブームの中、代々木系の今井正が、武士道の忠義の欺瞞を抉り出す意欲作。だが、こりゃ相当に変な映画ですよ。

■多分、このお話にもう少し説得力を持たせるには橋本忍に書かせるべきだったし、そうすればもっと凄い映画になったはずだ。これがヒットして次に橋本忍脚本で『仇討』が作られ、これは見事な傑作時代劇になったのだが、ほとんど因果怪談のような本作にこそ橋本忍は相応しい。

■本作を見て思い出すのは中川信夫の『亡霊怪猫屋敷』だったりするわけで、やっぱり中川信夫の方が映画的には凄かったりするのだが、それでも今井正の映画には、独特の詩情とか人間性の綾が塗りこめられているので、侮れないのだ。森雅之加藤嘉の見事な変態ぶりは名演技であり、カットのぶつかり合いによって変態の心理描写を試みる正統派の映画作家としての腕は確かなものなのだ。

■本作では武士道の忠義なるものの真実はずばりSM的関係性であると言っているのだが、代々木系の映画監督の中では、今井正はセックスと政治の問題に果敢に手を出しており、本作もその一環ではある。が、社会派リアリズムと言われる今井正の資質の本筋は実はそこにはなく、本作もリアリティは皆無である。七代に渡って主君が皆変態というそんな基本設定のどこに説得力がある?ただ、時代劇の中に男色の風習を正面から扱った姿勢はさすがの着眼。『あれが港の灯だ』で在日コリアンアイデンティティを問うた今井正のマイノリティへ寄せる視線には並外れたものを感じる。それを単純にヒューマニズムと呼んでは、それは違うのだ。もっと禍々しい必然性が今井正の中にはあったはずなのだ。

■でも、今井組のミューズ岸田今日子の妖艶さ、江原真二郎の爬虫類的な気味悪さ、前述の森雅之加藤嘉の堂に入った好色演技と人間観察の面白みには事欠かない。中村錦之助がこの映画の熱演で勘違いしてしまい、後の演技的迷走の源泉になってしまったのは罪深いが、それは今井正の責任じゃない!

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