風林火山 ★★★☆

基本情報

風林火山
1969/CS
(2003/5/24 時代劇専門チャンネル録画)
原作/井上 靖
脚本/橋本 忍、国弘威雄
撮影/山田一夫 照明/佐藤幸郎
美術/植田 寛 音楽/佐藤 勝
監督/稲垣 浩

感想

武田信玄中村錦之助)に仕官した山本勘助三船敏郎)は軍師として頭角を現し、諏訪の君主(平田昭彦!)を騙まし討ちさせる。その娘由布姫(佐久間良子)とはお互いに強く惹かれながらも殿の側室として生き抜くよう説得し、信玄の子勝頼(中村勘九郎)が誕生する。だが息子の元服を見ることなく姫は病に没し、残された男たちは自らの夢をかけて上杉謙信石原裕次郎)との川中島決戦に挑む。しかし、山本勘助渾身の戦略も裏をかかれて武田は窮地に立たされ、勘助は死中に活を求めて死地に赴くのだった。

 三船プロの社運をかけた(に違いない)戦国時代劇大作。がっちり組まれた長編小説の映画化のため、橋本忍ならではの話術の妙味は少ないが、天下取りの野望にとりつかれた戦国の男たちと自由に生きることを求めながら不運な境遇に弄ばれる姫の奇妙な愛情のあり方に力点をおいた作劇のおかげで、大味で冗長なものになりがちな難しい素材に新鮮な息吹を吹き込むことに成功している点は、実に貴重な成果であり、予想以上に面白い映画である。戦後の稲垣浩の時代劇大作の中では最も成功した部類に入るだろう。

 三船敏郎中村錦之助の絡みはどうも居心地が悪い感じが拭えないのだが、どうしても時代劇には不釣合いな石原裕次郎は顔見せ程度の出演で、徐々に存在感を増してゆく上杉謙信の不気味さを壊さない程度にうまく考えられた特別出演といえるだろう。

 信玄の正室久我美子が演じ、平田昭彦演じる諏訪の君主を騙まし討ちしたことを知って、信玄に食ってかかる場面は、このカップルの結婚の直接のきっかけが稲垣浩の時代劇(「大阪城物語」だったか?)での共演だったことからも、明らかに夫婦共演を意識した趣向で、微笑ましい限りだ。

 信玄、勘助と由布姫の微妙な三角関係の展開と戦国の権謀術策のサスペンスが同時進行で描かれ3時間の長丁場を淀みなく見せきる馬力には、邦画界斜陽期とはいえ、まだまだ日本映画全盛期の余力が残っていたことを感じさせる。

 合戦シーンは後年の黒澤明のような様式美を狙わず、正面から物量のスペクタクルを目指して、かなり成功している。黒澤の「影武者」を観てもの足りない部分のほとんどは、この映画でカバーできる。

 中村錦之助は全盛期の溌剌とした生気を失い、芝居が大仰になる途上にあることを感じさせるが、三船敏郎はまだまだ脂ののった時期で、迫力、貫禄、男臭さを発散して、生気あふれる野人のような軍師を熱演する。この前年の「山本五十六」と考え合わせても、この時期の三船敏郎は演技的に充実期にあったことがよくわかる。

 いかにも橋本忍的な無常感で締めくくるラストは、「クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶアッパレ戦国大合戦」でさらに高度に完成された形に進化している。

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