こんな日本に誰がした?子どもの怒りをストレートに描く政治的(?)怪獣映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』(ネタバレ全開)


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基本情報

ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突 ★★★
2024 ヴィスタサイズ 76分 @イオンシネマ京都桂川
脚本:中野貴雄 撮影:村川聰 照明:小笠原篤志 美術:稲付正人 音楽:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND 監督:田口清隆

感想

ウルトラマンブレーザーの待望の劇場版。TVシリーズがかなり高品質だったので、映画版だとどうなるのか気になったところだが、ニュージェネの劇場版は映画とはいえ、TVシリーズの撮影終了に続いてそのまま映画版の撮影が開始するというスタイルで、そもそも映画なみの予算は投入されていない。せいぜいTV版2、3本分程度の予算(多分)で映画を作ってしまうので、基本的に映画ならではのリッチな質感とかルックにはなっていない。TV版をそのままスクリーンで見ている感じだ。それでも近年のシネカメラの発達で、大スクリーンで観ても画調が破綻しないようになっているし、テレビ版でのあの場面やあの場面などが、大スクリーンでも立派に成立しているので感心する。

■本作もテレビ番組の番外編といった体制のこじんまりとした作風で、特に映画レベルの予算が投入されたわけではない。ミニチュアセットは完全にテレビスケールの組み方だし、本編の撮影も時間に追われて妥協していることはよく分かる(雨が降っているけどロケ撮影を敢行するとか)。むしろテレビのほうがよく撮れている場面もある。

■でも一番の見所は、事件の動機に少年の心を捉えたところだ。怪獣ゴンギルガン(さすがに大味すぎるけど)に少年の怨念が乗り移ると、怪獣は少年の心の声を大声で叫びながら、子どもたちの未来を抑圧する大人社会の悪の巣窟である霞が関に猛然と侵攻する。文科省(の古臭い建物)を一撃で粉砕するや、国会議事堂を目指す。テレビシリーズでもここまでストレートに政治的な描写は少ないのに、よりによって映画版でこんな批評性をぶち込んだ制作陣の勢いに感銘を受けた。特撮が云々、演技がどうこう言う前に、この脚本の構築には唸った。

■特撮的には、ミニチュア特撮の眼目はクライマックスの国会議事堂を段階的に壊す部分に集中して、序盤のコンビナート場面はマッチムーブ合成を駆使した田口監督の得意技で見せきる。合成カットの数とクオリティはさすがに時間がかけられる映画版。国会議事堂のミニチュア破壊もさすがに見応えがあるが、周辺の実写との馴染みは悪くて、勿体ないなあと感じる。でもなぜかホリゾントが、ギンガの頃に戻ったような味気なさで、島倉二千六は引退したんだろうけど、それにしてもここは寂しい。

■ゲスト俳優が飯田基祐とか田中美央なので、完全に『ゴジラ-1.0』を意識しているけど、飯田基祐のあたりのドラマとか演技のテンションとかはいまいちバランスがとれていない気はするなあ。

■これまでのウルトラマンの映画版では『ウルトラマンサーガ』が孤高の傑作だと思うけど、テーマ性の構築に関しては、本作もなかなか良いところに迫っている。もう少し尺と予算があれば、子どもの心の描き方にも余裕が出て、対怪獣作戦のサスペンスも描けるし、もっと映画らしくなるのになあ。特にミニチュアセットはもう少しスケール感(奥行き)が欲しいよね。


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