悪くないけど、いまいち突き抜けない土橋時代劇『引っ越し大名!』

基本情報

引っ越し大名! ★★☆
2019 ヴィスタサイズ 120分 @アマプラ
原作&脚本:土橋章宏 撮影:江原祥二 照明:杉本崇 美術:原田哲男、倉田智子 音楽:上野耕路 VFXIMAGICA 監督:犬童一心

感想

■姫路から九州の日田に国替えを命じられた松平家では、なぜか引きこもりの本の虫の片桐(星野源)が引っ越し担当奉行に任じられるが、誰も国替えの経験がないなか、前任者を頼るがすでに故人であった。しかも単なる国替えでなく減俸も抱き合わせで、藩士みんなを連れてゆく余裕はなかった。。。

土橋章宏が原作、脚本なので一定の面白さは確保されているし、クライマックスにはちゃんと悪人どもとのチャンバラも描かれて、娯楽映画としての一応の体裁は整っている。でも『身代わり忠臣蔵』ほどうまくはいってないなあ。

■急に命じられた国替えをいかに成功させるか、そこに変人である主人公が頓知や思わぬアイディアを駆使して、意外な能力を発揮するというお話を想像するところだが、簡単に前任者のマニュアルを発見してしまうので、あとは本の虫たる知識の披露を若干見せるくらいで、劇的な肝の部分は、予算不足の辻褄を合わせるため、一部の藩士に帰農を指示して、姫路に置いてゆくという部分にある。松平家はその後も何度か国替えを命じられるけど、最終的に加増があり、置き去りにした藩士たちを呼び寄せることができたというお話になり、どうも予想したところと違う着地にたどり着く。それはそれで悪くはないけど、主人公が何をしたのか、主人公の何が凄いのかというところがあまりピンとこない。このあたりは原作小説を読んだほうが腑に落ちるのかもしれない。

■国替えの発端が松平藩主(及川光博)に対する柳沢吉保向井理)の衆道絡みの恨みだったりするところがさすがに土橋章宏だけど、演出的にもいまいち冴えず、特に音楽劇の部分が昔の東映映画のようにおおらかな高揚感に突き抜けないのが苦しい。趣向としては悪くないのに。クライマックスの活劇場面も、もっと盛り上がるはずだがなあ。豪胆な剣客を演じる高橋一生は楽しそうで、昔の東宝の時代劇から抜け出したような好演だけど、せっかくのアクション演出がなあ。でも、皿を飛ばして対抗するのは良かったなあ。

■一方で技術スタッフは京都のベテラン勢を揃えて贅沢な布陣で、大きな美術セットは作ってないけど、撮影チームはちゃんと蝋燭の明かりのゆらぎまで表現しているから質感は高い。照明の親方の杉本崇はなぜかCカメラまで担当しているから凄いね。キャリア長いから、なんでもやっちゃうよ。まさにライティング・カメラマン。


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