舐めててごめん、まるで大林宣彦?斉藤光正の監督デビュー作は青春映画のユニークな佳作『斜陽のおもかげ』

基本情報

斜陽のおもかげ ★★★
1967 スコープサイズ 92分 @アマプラ
企画:横山弥太郎 原作:太田治子 脚本:八住利雄 撮影:萩原憲治 照明:宮崎清 美術:千葉和彦 音楽:林光 監督:斉藤光正

あらすじ

■小説『斜陽』のモデルとなった女性の娘として生まれた少女(吉永小百合)は、太宰信者の年上の恋人(岸田森)ができたが、その家族からふしだらな妾の子と差別されると、自分のルーツを求めて父の出身地津軽へ向かう。。。

感想

■なんとなくタイトルだけはよく知っているのは岸田森吉永小百合と共演しているから。大昔にテレビでちょっとつまみ食いした記憶があるが、ちゃんと観たのははじめて。しかも監督が斉藤光正なので舐めていたが、実はかなり上出来な青春映画なのだった。

岸田森は前半で吉永小百合よりも比重が大きいくらいに活躍し、まだ円谷プロ路線や岡本喜八路線に染まっていないので変態演技者ではなくて、実に真っ当に知的な青年を演じる。しかも、あの良い声で。新珠三千代芦田伸介岸田森の三人衆は実はテレビの大ヒットドラマ『氷点』からスライドしたものらしい。ここで岸田森はヒロイン内藤洋子の兄を演じて人気を得た。まだ清潔な演技派で、出自の良いサラブレッドとして期待されていた時期だ。(観てないけど!)そのまますくすと演技派で成長すれば、森雅之になれたかもしれないのに、なんで性格俳優になっていったのかな。多分、アル中のせいだね!

■何故か脚本を八住利雄が書いていて、吉永小百合の演技としても当時一部の人に話題にはなったらしい(田山力哉とか田山力哉ね)。実際、吉永小百合の映画としては上出来の部類で、斉藤光正の演出は80年代のアイドル映画を先取りしている。そもそも80年代アイドル映画の担い手は日活出身者だったので、当然と言えば当然だけど、そのフォーマットが斉藤光正によって用意されている。望遠レンズによる感覚的な画づくり、ロケ撮影での長廻しによる情感の演出、合成を積極的に用いたイメージ的なショット。まるで後年の大林宣彦なんですよね、これ。

キャメラマンの萩原憲治は時々非常に感覚的に先鋭的なシャープな画を撮る人だけど、本作もかなり意欲的に攻めている。冒頭の井戸から見上げたカットの作画合成(まるっきり『リング』だ!)も異様に凝っているし、終盤での夕焼けと線路の大胆な合成カットも思い切りが凄い。このあたり、いったい誰の発想なのか、従来の日活映画の作風から逸脱している。

■後半で檀一雄本人が登場したり太宰の故郷に旅する場面がドキュメンタリータッチになっているのもユニークな趣向だけど、構成が瓦解しないのはさすがに八住利雄の筆。最後は岸田森の遭難のくだりに綺麗に移行して、そのなかで遭難から生き残った岸田森の台詞がちゃんと二人のエピソードの決着をつける。しかも、あの良い声でだ。岸田森の映画における代表作だと思います!

■東京では自堕落な作家の妾の子、愛人の子として差別を受けるけど、津軽に行ってみると太宰に縁のある子として厚遇され、父に愛されて出生したことを自覚してゆく構成で、母娘の和解で終わるシンプルなお話だけど、それぞれのシーンがかなり丁寧に撮られていて、見ごたえがある。そこはやはり監督デビュー作として粘ったんだろうなと感じる。斉藤光正って、『戦国自衛隊』とか『伊賀忍法帖』とか資質にあわない企画をやらされている印象だったけど、本来はこういう映画を撮る人だったのだね。角川もちゃんとアイドル映画を撮らせればいいものを!

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