父ちゃんは辛いよ(全部自業自得だけど!)『黒い傷あとのブルース』

基本情報

黒い傷あとのブルース ★★☆
1961 スコープサイズ 86分 @アマプラ
企画:児井英生 原作:山野良夫 脚本:山崎厳、吉田憲二 撮影:岩佐一泉 照明:岩木保夫 美術:木村威夫 音楽:大森盛太郎 監督:野村孝

感想

■神戸で小牧(大坂志郎)という男の裏切りで濡れ衣を着せられ5年の刑期を終えたやくざな男(小林旭)は、復讐を誓って神戸に帰ってきた。小牧が横浜にいると聴き込んだ男は、敵がスーパーの店主になっていることを掴むが、偶然出会った可憐な娘(吉永小百合)の父親であることを知ると。。。

■日活ムードアクションのルーツのひとつと言われる本作、たしかにその雰囲気はあるが、まだまだ甘いのだ。前年の『やくざの詩』の方がずっと苦々しくて含意が深い。哀愁が足りないのだ。おしゃれなレストランに向かう旭の回想から始まる構成はさすがに効いているし、小百合(現実)を取るか、船出(自由)を取るか、という選択も、あたりまえながら納得の結末で、非常にキレイにできてはいるのだが。

小林旭吉永小百合のロマンスが清潔に描かれるが、のちの裕次郎&ルリ子の大人のムードではなく、青春映画のニュアンスだ。そこが物足りないと感じる。野村孝という監督もなかなか掴みどころがわからない人で、『いつでも夢を』などという清々しい勤労青春映画の傑作を撮るし、異形の日活ムードアクションの傑作『夜霧のブルース』も撮る。『拳銃(コルト)は俺のパスポート』というハードボイルドの傑作もある。もともと東大の学生運動で鳴らした人らしいが、日活では政治的な主題には触れず、完全に職人監督として粛々と企画をこなす雰囲気だった。

■本作は主人公がかなり類型的なので、ドラマの見せ場はむしろ小悪党の大坂志郎になってしまう。実際、旭と吉永小百合の両方から責め立てられる可愛そうな役どころ。もちろん自業自得なので当然の報いだけど、それが人間の弱さということなので、本作で一番人間らしい役を演じたことになる。明確にこの人物を主役として描いたほうが、異色のサスペンスになっただろうね。でも本作ではあまり丁寧には描かれず、大坂志郎の演技も特に優れたものではない。『人間狩り』などの名演と比べると、どうしてもそう感じる。

参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
『やくざの詩』は相当な問題作で傑作なんだけど、ほぼ忘れられた映画。
maricozy.hatenablog.jp
大坂志郎は公私共にクセのある個性派俳優で、ほんとにいい役者だった。『人間狩り』の演技は老け役の代表作だろう。
maricozy.hatenablog.jp

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