渡×ルリ子×杉良×チヨ!日活端境期を彩るヌーベルバーグ風活劇!『紅の流れ星』

基本情報

紅の流れ星 ★★★
1967 スコープサイズ 97分 @アマプラ
企画:園田郁毅 脚本:池上金男舛田利雄 撮影:高村倉太郎 照明:熊谷秀夫 美術:木村威夫 特殊技術:日活特殊撮影部 音楽:鏑木創 監督:舛田利雄

感想

舛田利雄が撮った裕次郎主演のヒット作『赤い波止場』を自分でリメイクした渡哲也の売出し企画だけど、もともとの原作映画『望郷』にゴダールの『勝手にしやがれ』を混ぜ込んで拵えた異色作にして意欲作。舛田利雄の不世出なハイセンスな部分が炸裂した、でも実にキッチュな映画。事前の所内の評判も良かったのに、これが興行的に不発だったので、舛田利雄通俗的浪花節演出で押し切った『「無頼」より大幹部』を撮り、これでやっと渡哲也は男になったという歴史がある。舛田利雄の60年代のハイセンスぶりを伝える挿話だ。

■渡哲也も藤竜也もまだ彼らのポピュラーイメージを獲得する前の微妙に収まりの悪い役がらが刺激的だし、そのなかに軽薄なチンピラ役の杉良太郎がいるかと思えば、その恋人が奥村チヨで名曲「北国の青い空」を歌うし、宍戸錠が戯画化した殺し屋をセルフパロディ的に演じるし、という日本映画史の端境期らしい新旧世代の混沌が支配している。その中にあって、浅丘ルリ子だけは、すでに独特のルリ子アイメイクを着こなして、すっかり一足先に大人の仲間入りを果たしている。だから、誰もルリ子にかなうものはない。

■お話自体は非常に空想的で反リアル路線だが、そのなかで浅丘ルリ子が明らかに特異点となっており、べらべらしゃべる軽薄なヤクザ五郎となぜか恋に落ちる。これは完全にご都合主義で、全く説得力はない。大学出の良家の令嬢と札付きの軽薄ヤクザが惹かれ合うにはそれなりに、心理的な段取りが必要だろう。そうした意味で、作劇のうまさは感じられず、軽妙で遊戯的な台詞の応酬が新鮮に見えたり、みんなが突然ジェンカを気だるく踊りだすクラブの場面(ここは傑作!)などの即興的な演出が際立つことになる。

■一方で日活撮影所のステージで撮影した、藤竜也×ルリ子のレストランの場面や、渡×ルリ子の組事務所の場面などは、堂々とキャメラを引いて延々と長廻しで堂々と見せるという緩急自在な演出を見せる。60年代、油の乗っていた時期の舛田利雄の冴えはとにかく凄いのだ。

■そして、ベッドに誘っているのに弟分の復讐に飛び出して行って恥をかかせた五郎を啓子(ルリ子)は許しはしない。だが、その二人の恋の断絶はさすがにご都合主義を感じさせ、『狼の王子』の絶望的な世代間的断絶には及ばないし、『狼の王子』のほうがよりヌーベルバーグ的だったと感じる。よりリアリズム寄りでありながら、前衛的なメロドラマでもあった『狼の王子』に比べると、純粋なファッション映画に見えてしまうからだ。正直、本作こそ間宮義雄のキャメラで撮るべきだったと感じるのだ。

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