きっといつかジョニーが助けてくれる!『硝子のジョニー 野獣のように見えて』

基本情報

硝子のジョニー 野獣のように見えて ★★★
1962 スコープサイズ 107分 @アマゾンプライムビデオ
企画:水の江滝子 脚本:山田信夫 撮影:間宮義雄 照明:森年男 美術:木村威夫 音楽:黛敏郎 監督:蔵原惟繕

感想

■もともとアイ・ジョージのヒット曲『硝子のジョニー』の映画化という歌謡映画の企画だったが、メインスタッフに山田信夫蔵原惟繕コンビを据えたことから芸術祭参加映画に変貌することになった異色作。

■貧しい北海道の漁村から人買い(アイ・ジョージ)に売られたミフネ(芦川いづみ)は逃げ出して競輪キチガイの風来坊ジョー(宍戸錠)のもとに転がり込むが、ジョーは惚れ抜いた競輪選手と小樽へ旅立ち、ミフネは怪我した人買いを看病するはめに。人買いはミフネにもう故郷に帰っていいというが。。。

芦川いづみの代表作で、それまでの役柄と一変して頭が弱いけど純粋で可愛い女を熱演する。まあ、基本的に圧倒的に可愛いので何を演じても、やっぱり可愛いのだ。

■ジョーはいつものジョーだが、人買いを演じるアイ・ジョージの存在感と妙なリアリティがこの映画の最大の見所。大阪弁が完璧にナチュラルだと思ったら、大阪での生活経験がある。というか、混血児として生まれ、幼少時代は海外も国内も転々とする生活だったらしい。その小柄で筋肉質の風貌が、歌手というよりもボクサー崩れみたいに見えるから、ほんとに暴力的で怖そうだし、独特のどすの利いた声に似合わぬ流暢な関西言葉が、また痺れる。歌手だった彼が転落した過去の恋愛事件が後半で語られ、このあたりは美術が木村威夫だけに、美術装置も完全にフランス映画風になる。蔵原惟繕は監督デビュー作の『俺は待ってるぜ』で、まるでフランス映画のような叙情的なノワールだったから、アメリカ映画ではなくフランス映画やイタリア映画を目指している。

■お話の骨格はもちろんフェリーニの『道』を下敷きにしているので、終盤は消えたミフネを追って、稚内の寒村にジョーと人買いがたどり着くが、一足遅かったという展開で、お話そのものよりも、北海道での競輪場付近のロケ撮影とか、前半のリアル路線から中盤、アイ・ジョージの鬱屈した存在感によってフランス映画の憂いを帯びてくる転調が面白い。

■いつかジョニーという男が助けにきてくれると夢想するミフネと二人の男の三角関係は、当時の若者の憧れだった欧州映画志向に彩られ、後年の市川森一のファンタジックな恋愛ドラマを彷彿させる。

■ちなみに、ミフネが線路に倒れ込んで機関車に引かれそうになるカットは、堂々とした合成カットで上出来だが、金田啓治のクレジットはない。きっと金田啓治の仕事だと思うのだが。
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