俺は、君のためにこそ死ににいく
2007 ヴィスタサイズ 140分
MOVIX京都(SC12)
製作総指揮、脚本■石原慎太郎
撮影■上田正治、北澤弘之 照明■山川英明
美術■小澤秀高 音楽■佐藤直樹
特撮監督■佛田洋 VFXスーパーバイザー■野口光一
監督■新城卓
“特攻の母”として知られる実在の女性、鳥濱トメ(岸恵子)の視点から、太平洋戦争で特攻隊員として儚く散っていった若者たちの青春模様を綴る戦争ドラマ。
なんといっても本作の見所は、戦闘機による特攻作戦を、正面からVFXで描き出した点にあり、「男たちの大和」で日本の特撮映画史に戦争映画の新たな基準を打ち立てた特撮研究所と東映アニメーションのスタッフが、その方法論の延長線上で、迫真の空中戦や特攻作戦のアクションを描き出している。実際は、三池敏夫が美術に参加していることからもわかるとおり、ミニチュア撮影も多用されており、隼や空母のミニチュアが制作されたようだが、これまでなぜか日本映画では避けられたり、技術的な未熟さできちんと描くことのできなかった、米軍空母に体当たりする戦闘機の砕け散る有様を、ストレートなミニチュア撮影で見事に描出したカットなど特筆に価する。こうした充実したミニチュア撮影は、特撮研究所ならではの仕事だろう。また、空中戦の自在な視点移動や、空中で爆破して翼がもぎ取られて、きりもみ回転しながら落下する戦闘機の様子を立体的に描き出した場面などは、CGの演出が見事で、東映東京撮影所の特撮技術とアニメ技術の融合は、「デビルマン」を振り出しに、長足の進歩を遂げている。正直、どのカットがミニチュアで、どのカットがCGかは、ほとんど見分けがつかない。「大空のサムライ」で空戦映画の第一人者となった川北紘一が歯噛みして悔しがっているに違いない。
しかし、石原慎太郎が書き下ろした脚本はレベルが低く、大西瀧治郎を担ぎ出しはするものの、特攻作戦が生み出されて、若者たちの命が消費されてゆく戦争のメカニズムの非道さを解剖してゆくような理知的な部分は無いし、特攻作戦のなかで散華してゆく若者たちのドラマがこれまでの戦争映画よりも掘り下げられているかといえば、そうした卓抜した着想や仕掛けがあるわけでもなく、あらゆる意味で陳腐だ。あえて印象的だったのは、朝鮮人兵士が特攻作戦に従事するエピソードと何度も特攻作戦から生還してしまう筒井道隆が、卑怯で生き残っているわけではなく、単に死ぬだけなら容易いことだと自爆してみせるエピソードには、これまでの戦争映画でも触れられなかった新しい視点が盛りこまれていると思うが、監督の新城卓の采配が、これまた非常に怪しく、粒だったエピソードとして演出されていないのだ。
何しろ上田正治がキャメラを担当しているので、映像の質感は高いので、アップを少なくして、じっくりと演技を見せようとする姿勢は悪くないが、只でさえ地味な配役のせいで、誰が誰だか判りにくいのだから、主要な面々は早々に的確なアップショットで観客に刷り込んでいかないと、盛り上がるものも盛り上がらないではないか。正直、観ていて、こんなにイライラする映画も珍しい。近年、名も知らぬ新人監督が大量にデビューしているが、彼らのほうがまだ上手いぞ。男優はまだしも、女優の配役は輪をかけて地味で、しかも、戸田菜穂の芝居における着物姿のだらしなさは演出家の責任が大きい。
この映画を見ると、「男たちの大和」は傑作であったと思えてくる(錯覚!)から困ったものだ。